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紙飛行機


「明良!」


そう私を呼び止めたのは幼なじみのブン太の声だった。

空から声が聞こえ、上を見上げてみると教室の窓から身を乗り出している彼がいた。

私はというと一日の学校生活を終えて帰ろうと校門へ向かって歩いていたところだった。


「今帰りか?」

『ブン太はこれから部活?』

「おぉ!」

『頑張ってね。』

「サンキュー!」


少し会話を交わしてから私は再び歩きはじめた。するとブン太は慌てて私を再度引き止めた。


「ちょい待ち!」

『なに?』

「これ!」


そう言って更に身を乗り出して見せてきたのは一つの紙飛行機だった。


『(紙飛行機…?)』


紙飛行機を持つ彼の姿が私の中でセピア色に染まる過去と重なった。

確か――ブン太と喧嘩したときのことだ。なんで喧嘩したかを覚えてないのは遠い記憶と化していたせい。

あれは窓を全開にしても体が汗ばむ時期で私たちがまだ幼き頃のこと。静かに瞼を閉じれば当時の記憶が蘇っていった――


「明良ー」


泣きじゃくり、完全に拗ねていた私の名前を呼んだのは幼き頃のブン太だ。


「明良ってばよー!」


絶対許してやるもんか、と頑(かたく)なになっていたはずがあまりにもしつこく私を呼ぶから妥協して窓から顔を覗かせたのがことの発端。

隣人で幼なじみだったブン太が私の部屋の窓に一番近い窓から身を乗り出していた。


「えいっ!」


小さな彼が力いっぱい投げたのは一つの紙。それは彼なりに折った紙飛行機だった。

不格好な紙飛行機は私の手元に届くことなく、近くの木に引っ掛かった。


「ちくしょー!んだよ!…よし、もう一個。」


投げてきた一つは墜落してゆき、一つは折り方が悪かったのだろう、空中で開いてしまった。なにがしたいのか理解出来なかったけど、その一生懸命な姿を見ていて怒っていたことなんか忘れてしまっていた。

無惨に広がった紙飛行機は下へ落ちていたわけで、ふと見た紙飛行機にはクレヨンでなにかが書かれていた。


“ごめん”


拙い字だった。“ん”が逆さに書いてあって読みにくいくらいカラフルな文字色だった。それでも気持ちが伝わってきて、嬉しかったのを覚えてる。


『……懐かしい。』


思い返してこぼれた言葉はその一言。しかし、今のブン太と当時の状況は関係ない。

なぜ彼が紙飛行機をこちらに投げようとしているかわからなかった。


「ちゃんと受け取れよ!」

『どこに墜落するかわからないのに無理だって!』

「なんでもいいから取れ!」


あたふたしている私を余所にブン太は紙飛行機を風に乗せ、手放した。

下りて来たそれを追って走ったおかげで紙飛行機が汚れることはなかった。


『なに?』

「中見て!」


ブン太の指示通りに紙飛行機を開いていくとそこには――


「無反応かよ!明良が反応するまで何枚でも折って飛ばすぜぃ!?」


昔と変わらないクレヨンで書かれた拙い字が現れた。そして、彼の真剣な姿やカラフルな文字色も変わらない。

でも、昔と変わってしまったことが一つある。


『…ブン太、』

「あ?」

『目が痛い。』

「文句言うなっての!わざわざ弟からクレヨン借りたんだぜぃ!?」


しかし、書かれていた言葉が――


『ありがとう。』

「昔から変わらずだからな!」

『うん。』


伝わったことと嬉しかったことは昔と変わらなかった。





紙飛行機
“ごめん”が“好き”に変わった





** END **

20080817

來恋は幼少期、実際に紙飛行機を使って仲直りしました



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