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悪魔に愛されて


俺が好きになった先輩にはカッコイイ彼氏がいて「俺なんか」って思う半面、「奪ってやる」と思う俺がいた。


「明良先輩、はよっス!」

『おはよう赤也。』

「なんか…元気ないっスね?」

『そんなことないよ。ほら。ね?』


先輩の笑顔がどこか寂しく見えたからそう言った。すると、無理に笑って腕を振り回して見せた。

なにかあったのかもしれない、と感づいたけどなにも言えなかった。


「やーっぱ、明良先輩は笑顔が一番っスよ。」


そう笑って知らない振りをした俺を見てか、また先輩の表情が暗くなった。

気になるけど首を突っ込めないのは俺がただの後輩だから。

かなり悔しい。


「そういや…今日は珍しく一人なんスね?」


その言葉のあとに続くはずだった「いつも彼氏と一緒なのに」という嫌味は飲み込んだ。

俺の言葉に反応した先輩の表情から原因が彼氏だとわかったから。


『うん…たぶん――』

「たぶん?」

『これからは…「おはようさん。」

『!』


明良先輩の背後から現れたのは彼氏の仁王先輩だった。

朝の挨拶、そのたった一言で明良先輩が固まった。

俺は二人に違和感を感じた。


『お、おはよう雅治。』

「ん、」

「はよっス…」

「先に教室行くきに、」

『あ、うん…』


仁王先輩が玄関へと向かうその背を見て明良先輩が一言呟いた。


『……まだ私、』


その先に続く言葉がなにかわかった俺は仁王先輩を追おうとした。しかし、明良先輩にすぐ阻まれた。


「なんでスか!?昨日まであんなに――」

『もう…もういいの。』


明良先輩が泣き始めるから何も言えなくなって、ただ「すいません」しか言えなかった。


「よし!」

『?』

「サボりましょ!」

『…え?』

「気晴らしに。ね?」

『でも赤也…』


無理に先輩の手を引いて周りの生徒とは逆方向へ進んで行った。

校門を出た頃、チャイムが鳴った。


「どーせ今から行ったところで遅刻扱い。さ、どうします?」


俺の言葉に悪魔、と先輩は答えた。

了解を得たところで明良先輩を連れて歩きはじめた。


「どこ行きます?明良先輩は水族館が好きでしたっけ?」

『…嫌いになった。』

「じゃあ、動物園?」

『好きじゃない。』

「遊園地。」

『制服で?』

「…前に仁王先輩と行ったんスか?」

『っ、』


別れてすぐに気持ちを切り替えるのは難しいのだろう。

明良先輩は必死だった。

仁王先輩を嫌いになろうと。


「じゃあ、俺んち来ます?」

『え?』

「仁王先輩と行ったことない場所…俺が知る限り、そこしかねーし。」

『ご両親いるでしょ?』

「うち共働きだから。サボったことなんかバレませんて。」

『…うん、』


明良先輩を連れて自宅に帰ることにしたはいいがよく考えれば誰もいないんだった。


「どーぞ。」

『お邪魔します。』

「来てもらってなんだけど、うちなんもないから。」


周りを見渡す先輩に断りを入れた。すると先輩は笑って言った。


『初めて来たからなにもないなんてことないよ。珍しいものもあるし。』


そう言って食器棚の中に飾ってある写真立てを眺めたりしてた先輩に俺は近づいて手を握った。


『な、に?』

「俺なにも聞ける立場じゃねーけど、俺に話すことで気が楽になったりするなら話せばいい。出来ることがあるならなんでもしてやりたいって思ってます。」

『…ありがとう。』

「時間はかかるけど忘れさせてやることだって出来ます。慰めてやりますよ。」

『……』


真剣な目で訴えると目を反らすことなく俺を見ていた。

明良先輩は少しの間ののち、ふと笑って俺の額にデコピンを食らわせて言った。


『赤也みたいな子供が?』

「なんなら子供じゃないって証明してしてやりますよ?」


強く握り直した手から緊張したのか先輩は後退りした。

追い詰める気はなかったけど距離を詰めるために近づくと自然に追い詰める形になっていた。


『赤也、』

「俺にだって明良先輩を守るくらいの力、あるはずっスよ?」

『ダ、ダメっ!』

「ずっと好きだったって知らないんだろ?」

『…確かにそれは今知ったけど。』

「愛に飢えるなら愛してやります。仁王先輩以上に、狂うほど。つか、今の状況からすればそうなるしかないしょ。」


逃げ場のない明良先輩は俺の制服のネクタイを握ってまた一言呟いた。


『まるで悪魔、』

「明良先輩が狂うんだから間違っても天使ではねーな。」

『悪魔なら酷い形で私を捨てる結果になるんじゃない?』

「例え悪魔でも、愛することを履き違えたりはしないっスよ。」

『……』

「俺がどれだけ先輩を思ってるか実感します?」

『…怖い、』


そう言う先輩を引き寄せてしっかりと腕で抱きしめた。

好きな女を傷つけたいわけがないだろ。

俺だって怖いってこと知ってくれよ。


「明良先輩。」

『うん?』

「俺とキス、しません…?」

『…うん、』





悪魔に愛されて
壊しそうだから慎重になる





** END **
20080817




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