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小さな兎たちの恋


私はあなたが好き。

でも、好きになりすぎたみたい。

ときに襲いかかる不安と恐怖に涙流す夜は幾度とあった。

翌日、目を腫らした私を見た彼・景吾に事情を話すや彼はこう言った。


「俺を信じてねぇのか?」


いいえ、信じてる。


『信じてるに決まってるでしょ?』

「だったらなんで不安になる。」


今が良ければ良いなんてよく言う人がいるけど、私はとてもそんな風に思えない。

1年後、5年後、10年後も一緒にいられるのかな?

そんなことを考えている私を景吾は「可愛い」と良いながら笑う。

真剣に考えて悩んで苦しんでいただけあって、景吾の反応は腹立たしく感じた。


『笑わないでバカ。』

「ククッ、俺にバカ言うのはおまえだけだぜ。」


抱き寄せられて、安心したのは景吾の鼓動と温もりを感じたから。

彼はそばにいる、と思ったから。


「確かに今は隣にいるしかできねぇ。だから、不安なら呼べ。すぐそばに行ってやる。」

『…うん、』


私を落ち着かせるみたいに髪を優しく、ゆっくりと撫でてくれた。

気持ちよさに目を閉じればクスリと小さな笑いが聞こえた。


「でも……不安になるおまえの気持ちわからなくはない。」


そう言った景吾の顔を見上げれば、遠くを眺めていた。

なにか思い出すように目を細め、そのまま目を閉じて静止していた。


「いつなにが起きるかわからねーのは事実だからだ。」


彼の言うことで私が不安を募らせたことに気づいたのか、すぐに私を強く抱きしめて誤魔化した。

でも、体は正直。

景吾の心臓はいつもより少し早くて内心では不安と恐怖に怯えているとわかった。


『景吾も怖い?』

「……否定はしねぇ、」

『そっ…か。』


お互い身をゆだねあって私たちは“人”になった。


「でも、俺は明良を守る義務がある。だから弱音は吐かない。不安にさらさせたくはない。」


私たちは無力だねって苦笑しあった。

見るものすべてが大きい壁のように立ちはだかっていて、怯えていた。


『景吾、うまく行くかな。』

「今更言うな。うまくいかなきゃ困るんだよ。」


荷物はなにもいらない。

必要なのは景吾への愛と信頼と幸せになりたい気持ちだけ。


『そうだけど…』

「まだ不安なのか?」


私たちが相手にしている人たちに比べたら私たちは無力な兎。

だからこそ、二人で人並みのことが出来るのだろうか。と、不安に思う気持ちは捨てなくてはいけない。


「明良。」

『はい、』

「大丈夫だ。俺と明良なら。」

『……』


震える手を握りしめられ、恐怖から冷めた体温を暖めるように景吾は両手で私の手を握った。

一際、冷たくなった左手の薬指にあるリングに指が締め付けられるような感じがした。

罪悪感があるから――


「明良、俺は誰だ?」

『私の…旦那様になる人。』

「良く言った。」


格差がある二人の結婚を祝福してくれる人はいなかった。

私たちはただ怯え、兎のようにビクビクしながら生きていた。

それが辛くて――





小さな兎たちの恋
怖い猟師たちから逃げることにした





** END **

2008.7.29



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