君と雨宿り
昼間は曇っていたが部活帰りの夕方、ぐずついていた空から水滴がこぼれた。予想外の天候に不機嫌になる。仕方なく近くの店で傘を買い、店を出て歩きだした。
「信じらんねぇ!傘なんかもってねーし!」
その声を聞き、立ち止まり振り返った。俺の横を声の主、宍戸先輩が駆けていった。
「傘ぐらい買えばいいのに、」
走り去った先輩に呆れてしまい、一人呟いてまた歩きだした。
この雨はいつ止むのだろう?
ズボンの裾が汚れないように道にいくつもある水たまりをうまく避けながら歩いた。ふと顔をあげればバス停が見え、ホッと胸をなで下ろして停留所の屋根の下でバスを待つことにした。
そこへバッシャバッシャと音を立て、小さな子供が雨宿りに停留所の屋根の下に入った。
俺は道路の方を見、子供は歩道の方を見ていた。屋根から顔を少し出して、空の様子をうかがっているのが視界に入った。
「(バスが来ない、)」
バスは10分間隔で運行しているはずだが雨の影響でバスは時間通りには来なかった。
『…くしゅんっ!!』
隣にいた子供がくしゃみをした後に鼻をすすった。7月と言えど、雨で濡れれば体温は奪われていく。
見れば子供の小さな体は震えていた。
さすがに見て見ぬ振りは出来ず、テニスバッグから未使用のタオルを出して子供の頭の上に乗せた。
「使え、」
『おにいちゃん、ありがとう!』
頭のタオルを取り、タオルを見つめていた子供は嬉しそうに言った。子供はそのタオルですぐに長い髪を拭いていた。
「家に帰ったら風呂に入った方がいい。風邪をひく、」
尊敬の眼差しで見る子供。それくらい常識なのだが、子供にしたら違うようだ。
『わかったー!明良、おうちかえったらおふろはいる!あ、おにいちゃんタオル…』
「それはやる。」
『だっておにいちゃん、タオルないとこまるでしょ?』
なんだそんなことか、と心の中で突っ込む。タオルをあげる、と言えば満面の笑みでお礼を言う子供。タオル1枚でこんなに喜ぶとは、なんて純粋なんだと思った。
よくよく考えれば、傘を片手に持っていたのだった。俺は明良と言う彼女に傘を手渡した。
「これをさして帰れ、」
『おにいちゃんがこまるでしょ?』
「俺はバスだから。」
『……かりてもいいの?』
「いや、やる。」
『それはママにおこられる!あ…おにいちゃんのおなまえとじゅうしょおしえてください!』
切実に言う明良と言う子供に応じ、数学のノート1枚を破り名前と住所を書いて渡した。そのとき、ちょうどバスが到着した。
『なんてよむの?』
「日吉若だ。」
『わかしおにいちゃん、ありがとう!』
そう言って##name1##はバスが見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
―それから3日後
母親に渡された手紙を見て、気持ちが暖かくなった。それは明良と彼女の母親からのお礼の手紙だった。
「先日は娘がお世話になりました。どうしても日吉さんに手紙を書きたいと娘が言うものでまだ読めもしない字を書くことにチャレンジしました。」
俺はその手紙を見て、すぐに明良の手紙を見た。
「……可愛いな、」
彼女からの手紙に何が書いてあったかは俺だけの秘密だ。
君と雨宿り
また、あの子に会いたいな…
** END **
執筆/2006.7.1(マガ311号にて配信)
加筆/2007.5.5
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