失恋は偶然、恋は必然
彼女にフラれ、仕事もせずに2日間やけ酒。
飲み過ぎて頭がガンガンすることを付き合っていた彼女のせいにした。
自分の格好悪さと惨めさに情けなくなるがどうにも出来んかった。
「……はぁ。ついとらん。」
気晴らしにドライブに出掛けたがそれが運の尽き。
出発前に見えた青い空はいつの間にか姿を消し、暗雲垂れ込める空へと化していた。
どんなに早く車のワイパーを動かしても前が見えないほどの豪雨に見舞われ、すっかり落ち込んでいた。
自分の人生に嫌気がさすまで。
「ガス欠になる。」
ガソリンメーターの下部にある“E”に針が近づく度、不安になった。
いつもならなんとかなるだろう、と楽観的、また前向き思考だが今日は全く駄目。
消極的も酷い。
「ぶっちゃけ、俺ん愛情タンクも空じゃ。」
運転することも諦め、近くに停車してハンドルを手放した。
車のハザードランプが雨に反射してオレンジに光っていたのがサイドミラーから見えた。
「なんでこうなるかね。」
俺が呟いた言葉に返答してくれたのは人ではなく、車だった。
クラクションが数回鳴った。
近くに車が停車するとドアが閉まる音から少し後に俺の車の窓をノックする音が聞こえた。
『どうされました?』
女が声をかけてきた。
窓を少し開けて相手に返答した。
「視界が悪くて進む気になれんくてのう。」
『確かにこの雨ですからね〜。あ。もしかしてガス欠に近いんですか?』
ほんの少し開けた窓の隙間から“E”の文字のランプが点滅しているのが見えたのだろう。
彼女はそう言った。
『私、これから仕事でコンビニ行くんです。よかったら雨が止むまでそこにいたらどうですか?乗せていきますよ?』
優しい笑顔が胸に染みた。
彼女の好意に甘え、俺は車を停車して彼女の車に移動した。
『旅行かなにかでこちらに来られたんですか?』
「なんでそう思うん?」
『この辺りであんな格好良い車を見るの珍しいので。』
そう笑った彼女の横顔が忘れられそうにない。
失恋したばかりなのに他の女に心が弾んだことなんか初めてでこんな年になって恥ずかしいが、動揺故に目を泳がせた。
『着きましたよ。』
「わざわざどうも。」
『明日にはこの雨風治まるんじゃないですかね?』
「だといいが…」
『コーヒーでよければお出し出来ますよ?』
客とはいえ、店のお得意さまでもない俺にコーヒーなんて出していいのか、と疑問視しつつもまた彼女の好意に甘えてみた。
「ところでおまえさん名前は?」
『早苗明良です。あなたは?』
「仁王雅治、」
『お幾つですか?』
「22。」
『一つ年上なんですね。』
勤勉に働く(商品陳列棚の掃除)彼女とは一晩中話をした。
家族のこと、学生時代のこと、恋愛のこと、旅の理由など。
『辛かったですね。』
「もういいん。ところで明良は恋人いるんか?」
『今はいないです。』
「前はいたんじゃ?」
『辛い思いをするからいらないんです。』
「ふーん?」
何となく暇で商品を棚を戻す作業を手伝うため、明良の隣に屈んだ。
その距離、30cm。
『友達の話聞いてると少し羨ましく感じるけど、友達が泣いてるのを見ると欲しくなくなります。』
「だったら、辛い思いをさせないような男を探せばいいじゃろに。」
『仁王くんは辛い思いを彼女にさせたことあります?』
「ある。」
『ほら。男の人は女の人を泣かせるのが仕事なんですよ。』
明良の発言に気持ちが歪んだ。
否定するのに一瞬必死になって明良の手を掴んでいた。
「じゃけ、俺は相手を幸せにしてやりたいって思う。泣かせたいなんて思わん。」
『……』
手を掴んだことで距離が縮まった。
この後、どう話を切り替えして良いかわからんくて冗談混じりに言ってみた。
「鳴かせたい、とは思うが。」
『……そんなこと私に言わないで。』
それに対しての反応があまりに可愛くて、顔を真っ赤にしてそっぽ向いた明良をそのまま引き寄せた。
「辛い思い、しないで恋愛してみん?」
『辛い思いしないで恋愛させてくれる人なんているかな?』
「俺がさせちゃる。」
少し、また少しと二人の距離が縮まる。
唇が重なるまであと3cm――…
「すんげぇ雨だー。朝には止むと思ったのによー…明良ちゃーん、新聞来たかー?」
早朝、いきなり現れたお客に驚いてお互い身を引いた。
それを見た客が笑いながら言った。
「お取り込み中だったかー!すまんすまん。新聞はまた取りにくるわ。」
『ちょ、おじさん!』
「いいってー!気にすんな。兄ちゃん、明良ちゃんをよろしくな?続きどうぞ。」
「じゃあ、遠慮なく。」
『仁王くん!』
失恋は偶然、
恋は必然
このコンビニには恋が売っていた
** END **
#2008.7.4
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