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友情も愛情のうち


ある日、同じクラスで隣の席の仁王雅治に呼び出され、ぐずついた天気だというのに中庭へと向かった。


「お、来たか。」

『話ってなに?早くしないと雨降ってきそうだよ?』

「……」


俯いていた雅治を不思議に思い、一歩足を踏み出して彼の顔の前で手を振った。

すると急にその手を掴み、私を引き寄せた。

抱きしめる力が強くて苦しい。

でも、それ以上に胸が苦しかった。


『まさは、る…』


呟いた言葉と同時に空が一粒、また一粒と涙をこぼした。

次第にその涙は私たちを濡らしていった。


『雅治、濡れてきた。』

「……」

『雅治ってば!』


一向に放す気配はなく、私たちは完全に濡れてしまった。

どうしたらいいかわからず、そのまま立ち尽くしていた。

すると――


「なにしてんだよ!」


ブン太が現れた。

どこからか私たちが見えたのか、息を乱しているところからすると走ってきたみたい。


「なにしてるように見える?」

「っ、」


雅治がイタズラな笑みを浮かべ、瞳がその一色だったのを見て私はすぐにブン太をからかうためだとわかった。

それでも常に真剣なブン太にはその裏事情を知ることなく、雅治に構えていた。


「明良を放してやれよ!」

「無理。“俺かて明良が好き”なん。」


そんな風に雅治は言ったけど、どこか楽しそうだった。

私なんかでブン太を釣るなんて。

きっと雅治のことだから、暇潰しにブン太で遊ぼうと私を呼び出したんだろう。

なんて悪趣味。


「俺とおまえの気持ち一緒にすんな!」


ブン太が声をあげて雅治に威嚇したのには驚いた。

それでも私は嬉しいはずのブン太からの告白より、雅治が腹を抱えて笑う姿が目に見えた。


「そんなんわからんじゃろに。俺の気持ちをブンが100%理解することなんて出来んわけじゃし。」

「でも、俺なら付き合ってもない女を抱きしめたりしねぇよ!」


一瞬、雅治が粘るか否か悩んでいるように見えたけど笑いを堪えきれず、吹き出した。


「傑作じゃー!ぶっくくく、」

「……は?…はぁ!?まさかおまえ!」

「騙される方が悪いんよ〜」


雅治は満足したのは私をブン太の方に突き飛ばした。(酷い)

ブン太は慌てて私を抱き止めて雅治にブーイングを始めた。


「なんつーことしてくれたんだバカ!」

「知らんぜよ。あまりに焦れったいんじゃもん。背中を優しく押してやったまで。」

「嘘付け!今のは蹴飛ばしたに近かったぜぃ!」

「お幸せに〜」

「ちっ、仁王ー!」


雅治は見たからに機嫌が良く、鼻歌を歌いながら去っていった。

どうしてくれるのよ、この状況。


『あのー』

「え?あ。わ、悪い。」


ブン太は私から手を放し、自分が着ていたブレザーを脱いで私の肩にかけてくれた。

今日は夏服を着るには肌寒いと思い、冬服で登校し、教室にブレザーを置いてブラウスだけで来て、雨に打たれてしまったのだ。


『……見た?』

「なにが?つか、見てるとしたら仁王だろい。去り際、ピンクーって笑ってやがったし。」

『やっぱりブン太も見たんじゃない!そうじゃなきゃブレザーかけてくれないでしょ!?』

「見てねぇってば!仁王がそう言ったからもしかして、って思ったんだよ!」


このままここにいたら風邪をひく、と話題を逸らしてびしょ濡れになった私の手を掴み、ブン太は歩き始めた。


『ところで、どこから私たちを見てたの?』

「廊下。仁王に呼び出されて、仁王が来るの待ってた。呼び出しといて中庭で明良に抱きついてるってどういう神経してんだよ!すっぽかしやがって。」

『ブン太さ…本当は私じゃなくて雅治が好きなんでしょ?』

「はぁ!?さっきの聞いてなかったのか?あ……」

『なに?』

「もしかして俺、仁王にはめられた?」

『今更でしょ?』





友情も愛情のうち
アイツがニヤニヤしてると思うとすげー腹立つ!





** END **

#2008.6.5

仁王はきっとブン太のためなら悪者にだってなるはず



あきゅろす。
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