好きなのに苦しい
学校のみんなは高貴な性質の持ち主としてインプットしているだろうけど、兄は自分を繕っている。
妹という特別な立場だからかもしれないけど彼は私に優しく声をかけ、いつも気遣ってくれる。
「明良、なに読んでんだ?」
『最近人気の恋愛小説ー』
「ふーん?おもしろいのか?」
『お兄ちゃんも読んでみる?』
「結構だ。」
『そう言うと思った〜』
兄―景吾が私は好き。
それは兄妹愛ではなく、異性として。
「あ。おい、明良。おまえまた髪の毛濡れたままだ。乾かしてこい。風邪をひく。」
『はーい。』
間違った感情を持ってしまった私には身が張り裂けそうになる瞬間がある。
兄には恋人がいるため、二人でいる様子を見ていると耐えられないくらい辛い。
それでも、恋人より自分のほうが兄と過ごす時間が多いということだけが優越感に浸ることの出来る理由。
「たく、なんでいつも乾かして脱衣所から出てこねぇんだ。おい、」
兄は近くにいた使用人にタオルを持ってこさせた。
それをどうするつもりなのか。
『なに?』
「拭いてやる。」
『いいよ。自分で拭くよ。』
「遠慮すんな。」
兄は私の長い髪を手に取り、優しくタオルで拭き始めた。
あまりの気持ちよさと幸せ故に読んでいた本を閉じていた。
私は普通じゃない。
理解していても、自分の気持ちに偽るなんてプロの詐欺師でも出来るわけがないと思うほど、兄に恋する私は重症だ。
「髪の毛濡れたままでいると体まで冷えんだから気をつけろよ。」
『心配してくれてるの?』
兄を試すようなことを言ってどうしたいの?
答えなんて“自分は妹なのだ”と自覚するものだとわかりきっているのに。
「……当たり前だ。」
『そっか。じゃ、気をつけるね。』
「そうしろ。」
恋人から兄をとろうなんて思ってないからせめて、この気持ちを私の内に秘めさせて。
「景吾様、お客様です。」
同じ屋根の下で好きな人と住むことには嬉しさだけではなく、辛さも伴う。
知りたくない情報まで得てしまうからだ。
「わかった。」
『部活のお友達?』
「いえ、女性の方です。」
兄を訪ねてきたのが恋人だとわかってる。
動揺してる私は言わなくていいことを言ってしまった。
『なんだ、お兄ちゃんデート?』
「…明良には関係ねぇ。」
『……』
「(あ、)」
わかっているのよ。
自分が妹であること――血を分けた兄妹であること。
『そうだよね。ごめん。髪の毛ありがとう。』
「(クソッ、なんで俺が明良以外の女を彼女にしねえとならねぇんだ…!)」
好きなのに苦しい
もがけば、もがくほど苦しくなる
** END **
2008.5.24
NO.331133
藍羅 愛美さま
両思いなのに兄妹だから、というもどかしさ〜な、お話
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