隠れたよろこび
誰も気づかなくて良い。
わかるはずがない、と思っているから余計かな?
『ふふふ〜ん〜』
ただ、小さなことで自分が好きになれて、天気がいいと気持ちがよくて、鼻歌なんか歌っちゃって。
言ってしまえば単純なんだけど。
「明良。」
『なに?』
でも、きっと隣の席の跡部がうきうきしてる私の心をブッ刺すのよ。
鋭利な刃物で刺すかのごとく。
「気色悪いから鼻歌やめろ。」
『うるさいなー跡部。』
「ついでに言うと訳の分からないメロディは耳障りだ。」
うわ。
なんてワガママな男なの!
自分が知らないメロディだからって耳障り呼ばわり!?
『跡部が知らないだけでしょ!森のく○さん!』
「森のく○さん?幼稚な歌、歌ってんじゃねぇよ。」
『歌いたかったんだからいいの!』
わざとらしく鼻を高くしてそっぽ向いた。
少し反応が気になってチラッと跡部を見たけど私を見てなかった。
『ムカつく、跡部のくせに。』
「あん?俺様だから許されるんだろうが。」
『ナルシスト!』
「それと見合う男だから誰も文句なんか言わねえよ。明良ぐらいだな、俺にブーイングするやつは。」
『知るか!』
「ククッ、可愛くねえ女。」
『るさい!』
なんで跡部が隣なんだろう、と数日前の自分のくじ運を疑う。
窓側の一番後ろの席、なんて良い場所なんだろうと内心喜んだのに次の瞬間、その喜びは消え失せた。
「隣はおまえか。」
嫌そうに言うな。さらに言うと嫌なのは私のほうだ!
隣が跡部だとわかり、次の席替えが待ち遠しくて仕方なかった。
『跡部はなんでいちいち私に突っかかるのよ!放っておいて!』
そう跡部に告げ、窓から外を見た。
そのとき、肌を優しく撫でるような風が窓から吹き込み、ふわりと白いカーテンが動いた。
「明良、」
『なにー?』
完全に跡部に嫌気がさしていたため、適当に返事をした。
窓の方を向いていたせいで視界に急に現れた跡部の手に異常なまでに驚いてしまった。
「似合うじゃねぇか。」
『……なにが?』
「ご機嫌だったのはこれのせいか。」
耳元の髪をめくられ、動きが止まっていた私を見てふと笑う跡部に不快になる。
すぐにさっきの風で耳元が見えたんだと気づき、跡部の手を払いのけた。
「ピアス、今度プレゼントしてやるよ。」
『いい、』
「あーん?」
『平気でダイヤとかついたのくれるでしょ。』
「ダイヤモンドなんか安いもんだ。」
可愛くない返事をしてしまったけど、少なからずあの跡部が私に好意を示してくれているのを知っているから、跡部が一番に気づいてくれて嬉しかった。
隠れたよろこび
少し素直になってみようかな?
** END **
2008.5.14
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