帰らない日々U
明良を苦しめることしかできない俺なんかいない方がいい。
好きな女を笑顔、それも幸せそうな表情をさせることができないなら別れを告げた方がいい。
「お、明良だ。」
「ホンマや。いつも図書館で勉強してんねやな?跡部、知ってたか?」
「……」
「跡部?」
忍足の声と俺の顔をのぞき込んだ岳人に気づかされた。
自分の思考が停止していたことを。
「あ、……なんだ?」
「いや、なんでもないわ。な、岳人?」
「え?あ、うん。」
明良を解放してしまった今、彼女を遠くから眺めているだけ。
思うのは悔恨。
「(苦しめて悪かった、)」
何度見ても思うのは同じことだった。
近寄ることさえ許されないだろう。
ただ、明良が笑っていればそれでいいんだ。
とある日の授業後の話。
「跡部くん、悪いんだけど。これ、資料室に戻してきてくれない?私、次の授業あるから。」
教師から頼まれ、俺は資料室へ行くことになった。
めんどくさいと内心呟き、無言で応じた。
「(たく、使うなら岳人のほうが便利だろ。)」
教師は近くに居合わせた俺に声をかけてきただけだから何も言えないのはわかっているが文句くらい言いたくなる。
たどり着いた資料室の棚に先の授業で使った教材を片づけた。
すると誰かが入ってきた。
段ボールいっぱいに地図なんかが差し込まれているものを運んできたのは足元を見て女生徒だとわかった。
見ていて哀れに思い、彼女から箱を奪って棚に戻してやった。
『すいません、ありがとうござ……!』
「!」
鉢合わせ。
その女は避けていた明良だったわけで空気が一瞬で凍ったみたいになった。
俺はなにも言うまい、と決意し、歩きだした。
『あ、跡部!』
呼ばれたが立ち止まる筋合いはない、と思った俺は無視して突き進んだ。
しかし、明良はわざわざ腕を掴んで引き留めた。
『跡部…私、』
「もう明良は自由だろうが俺に用事なんかあるわけがない。」
明良の話を聞くつもりはなかった。
だから、冷たくあしらった。
『跡部はなにも言わずに私を解放した。でも、私は納得してない!』
「また俺に縛られて自由を失うつもりか?」
『そうじゃない!私は跡部が「言うな!」
明良を静止させて俺はまた歩き始めた。
すると今度は俺に抱きついてきた。
「離せ、」
『やだ!だって、なにも言わずに行くでしょ!?』
「当たり前だ。おまえに話すことなんかないんだからな、」
悪いな、明良。
俺はまた、おまえを恐怖に陥れるわけにはいかない。
『なら、一つ聞けたらそれでいい。』
「あ?」
『跡部は私と友達だった時からやり直せるならやり直したいと思う?』
明良を見ないと決めたのに俺は見てしまった。
そして、望んでいる答えを与えてしまった。
「あぁ、そうだな。」
明良がみんなと笑っていられればいい、と思ってた。
だが、明良が俺に笑うようになればいい、とどこかで思っていたのかもしれないな。
『よかった……』
明良の涙と笑顔を見て思った。
帰らない日々
いつか元に戻れたらいいな、と
** END **
2008.5.3
続編にしてみた
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