ビー玉に願い事を
幼き日の記憶としてぼんやりと残る、まるで夢のような記憶。
唯一覚えていること。
とても大切な思い出のはずなのに時の経過のゆえに薄れていく悲しさ。
あなたにはわかりますか?
私はあれから12年が経過している。
「お父さんたちはほかの先生たちにご挨拶してくるよ。」
「明良は校内を探索でもしてて?終わったら携帯で連絡するから。」
『はーい、』
私たち家族は12年ぶりに東京に帰ってきた。
と言っても東京での記憶なんてあまりなくて、今見るすべてが新しい思い出となる。
中学3年で転入することになり、受験のことも考えて両親はエスカレーター式の学校を選んでくれた。
受験のストレスがない分、学校生活は楽しめそう。
『(うわーまるでお金持ち学校じゃん、)』
明日が新学期だということで前日にお世話になる先生たちにご挨拶にきた。
ついでだから校内を探索してみる。
わりと新しい造りの学校だから改築したばかりなのかもしれない。
庶民の私がいてはいけない場所だと思うくらい、建物の雰囲気はブルジョワだ。
『うまくやっていけるかな…』
不安を漏らした時だ。
――カツーン。
なにかが落ちる音がした。
それがいつ両親から連絡が来るかわからないため、手にしていた携帯のストラップだと気づき、辺りの床を見渡した。
『どこいっちゃった?うわ、壊れちゃったのー!?』
ストラップの紐の部分が見事、ちぎれていた。
その先には球体がついていたため、転がっていったらしく、近くの床にはそれらしい形がなかった。
――カツーン、カツーン。
ふと聞こえた音。
それが近くの階段から聞こえ、転落しているとわかり、球体を追った。
あれは幼き日の唯一の記憶で夢ではないと言える唯一の証拠だから、なくすわけにはいかない。
私は足を早めた。
すると、階段の踊り場で人がそれを拾っていた。
「ビー玉…?」
『あの、すいません。それ、私のなんです。』
男の子はゆっくりとこちらを振り返り、ストラップを差し出してくれた。
踊り場にある窓から差す光のせいで相手の顔は見えない。
『ありがとうございました。』
「それ、手作りか?」
『え?これ、ですか?』
確かにそれは大切な思い出として業者に頼んで加工してもらったもの。
唯一無二のストラップだった。
『はい。大切な思い出をいつも持ち歩く携帯のストラップに加工したんです。』
「……ビー玉。誰にもらった?」
『12年前に会った男の子からです、』
「…ふーん?」
なにも覚えていないの。
ビー玉をくれたのは男の子だったこととビー玉の色が彼に関係してること以外は。
「ところで転校生か?」
『あ、明日から3年に、』
「……名前は?」
『早苗明良。…あの、貴方は?』
「聞きたいか?」
『え?あ、はい。』
名前を聞いてきたから聞いてあげるのが礼儀かなと思い、聞いただけ。
逆光でも唯一見えた口元、それは楽しそうに笑っていた。
「明日、」
『え?』
「新学期で2・3年だけ体育館に集められるだろうよ。その時に演台に上がる。」
よく見てろ、明良。
そう彼は呟いて去っていったけど結局、顔は見えなかった。
『誰なの?名前…教えてくれなかった。』
一人その場に残された私はあっけらかんと口を開けて立っていた。
その時、両親からの連絡を受けた携帯が手の中で振動した。
「明良、帰るわよ?」
『うん……』
そんな不思議な出会いをした翌日、新学期が始まった。
転校生として来た氷帝学園。
なにかが起こりそうな予感がして机の上に携帯を置き、直したストラップのビー玉を見つめていた。
間もなく、体育館へ集まるように指示を受け、新しくできた友達に体育館に案内された。
生徒たちが続々と集まり、整列すると集会が始まった。
長い学園長の話が終わると一人の教師がマイクを取り、生徒会長挨拶と言った。
演台に上がる。
そう言っていた彼の言葉を思い出し、私は演台に目を向けた。
まさか、こんなことってあって良いのだろうか。
「新学期の始まりにはふさわしい天気に恵まれ――」
会長の話なんて聞いていなかった。
ポケットに入れてあった携帯のストラップを握り、あなたの瞳を見つめていた。
「――以上です。次に生徒に連絡。新生徒会生徒は議案書持参で3年A組、跡部まで――」
A組の彼は生徒会長で跡部くんと言うらしい。
彼が昨日会った人みたい。
「ついでに私信だ。早苗明良も跡部景吾のところにくるように。俺と同じ瞳の色のビー玉持ってな。」
衝撃が走った。
まさか、彼が――記憶の中の人。
ビー玉に願い事を
ビー玉をくれた彼にまた会えますように
** END **
2008.4.9
これは続き書きたいですねv
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