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単純な生き物たち


目の前には言い合いしている男女がいた。

一方的には怒ってるのは女の方で男はただ眉をしかめて生返事をしていた。

かなり見覚えがある。


『景吾なんか知らない!もう帰る!』


男の元から走り去る女を追ってみた。

それが学友の明良だとわかったから。


『信じらんない!』

「なにがや?」

『!』


急に声をかけたせいか、振り向いた明良は驚いていた。

俺を見て罰が悪そうに眉尻を下げた。


『侑士、まさか見てた?』

「バッチリな。」

『タイミング悪いな〜』


苦笑する明良。

俺もこんな状況に面してしまったことを思いだし、明良に吊られて苦笑した。

それでも明良の表情はすぐに不満げなものに変わった。


「な?腹減ってへん?」

『ん?』

「近くにカフェ出来たん知らん?」

『あー』

「行かへん?奢るし。」


誘いを断るわけでも承諾するわけでもなく、明良は無言で俺について歩いた。

カフェに明良を連れて入り、席についてメニューを見せた。


「好きなものどーぞ。」

『……サンドイッチセット。』

「了解。お願いします。」


オーダーし、店員がメニューを下げる。

置いていったコップの水を口に含んだ後、しばらくして注文した物が運ばれてきた。


『いただきます、』

「どうぞ。」


サンドイッチに手を伸ばした明良はお腹が空いていたのか、皿の上にあるものが順調に減っていった。

それまで俺は適当に話していたが尋ねたかった本題に入った。


「跡部となにしてたん?」

『待ち合わせしてたの、』

「休みの日に跡部が出てきたん?」

『デートだったの。』

「あぁ。」

『なのにね!?景吾ったら2時間も遅刻してきたの!』


現在時刻、12半過ぎ。

このカフェに行こうと誘ったのは12時くらいだった。

つまり、明良は10時から跡部を待っていたらしい。


「そら災難やったな?」

『もう!』


気持ちはわからなくはない。

だから俺は言うた。


「なにか事情あったんとちゃうん?」

『え?』

「跡部。中学生でも忙しい身やしな。」


俯いてしまった明良を見て笑うしかなかった。

手を伸ばし、優しく頭に触れた。


「明良のことや。どうせ一方的に怒ったんと違う?」

『……』

「それとや。お腹空いてへんかった?」

『それがなに?』

「お腹空いてると怒りっぽくなるんや。」


自分のした間違いに気づいた明良は財布を取り出した。

それを見てすぐになにをしようとしてたかわかり、手を押さえた。


「奢り言うたやん?そんなことより早よ跡部んとこ戻ったり?あいつのことやからまだ待ってるやろうし、」

『ありがと侑士!』


明良と跡部があの後どうなったかは知らん。

やけど、その日の翌日、学校で一緒におったから仲直りできたんかもしれん。


『あ、侑士!』

「お、明良に跡部。」

『これ…ちょっとしたお礼。口に合うかわからないけど、』

「手作りなん?」

『うん、』


可愛らしい小包を見て、それが明良の手作りだと気づいた時には嬉しさから笑みが浮かんだ。

しかし、それを見ていた跡部が明良に突っかかっていた。


「なんで手作りなんだよ!」

『え?だって、お礼すること思い出したの夜だったもん。作るしかないじゃん?』

「買えばいいだろうが!」

『今日渡したかったの!』

「言えばすぐに用意してやった!」

『自分で用意しないと意味ないの!』


二人の言い合いを聞いていて、ふと時計を見てついつい笑ってしまった。

時刻は12時40分、ちょうど4限目が終わったところだった。





単純な生き物たち
まさか跡部、腹減っとんのか?





** END **
#2008.4.8

お腹が空くと怒りっぽくなりません?



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