[携帯モード] [URL送信]
A beloved lie


悔しいけど、好きという気持ちだけじゃどうにもならないこともある。

例えば、彼女が前の恋人を忘れられない場合なんかはまさにそう。

その前の恋人が亡くなっているなら、さらに厄介だ。


『あ、亮!こっちこっち、』

「んだよ。今日は外で昼食か?」

『天気がいいしね。』


俺の彼女、明良は氷帝高等部3年――つまり、俺の先輩に当たる。

学校で会えるのは昼休みのたった数十分だけで昼食時は貴重な時間だ。

その日、珍しく外に呼び出された俺はあるベンチまで来た。


『はい、お弁当。』

「え?俺の?」

『うん、昨日メールしたでしょ?お昼持ってこなくていいからって。』

「ありがとよ。」


思いもしなかった手作り弁当に喜ぶ俺はまず、明良の力作だというワカメ入りの卵焼きを口に放り込んだ。


『おいしい?』

「すげーな。ワカメ入れて巻くの難しかっただろ?」

『乾燥ワカメは水で戻してから水気を切って入れたの。』

「どーりでうまいわけだ。」


端から見れば、俺らはふつうの恋人同士かもしれないがちょっとした事情がある。

冒頭で述べた例えば、の話は自分たちのことだったりする。

明良は1年半前に恋人を亡くしていて、俺が明良と出会ったのはちょうどそのころだった。


『ねぇ、亮?』

「あ?」

『聞いても良い?』

「なに?」

『亮は忘れなくて良いって言うけど、亮は本当にそう思うの?』


明良が笑うならそれで良いと言い聞かせてきた。

それはこれからもずっと――


「あぁ。」


明良が涙をこぼさないならそれで良い、明良をあまり困らせたくないって思ってた。


『うそつき!』


明良に嘘つきと言われて胸が痛んだ。

確かに嘘かもしれない。

だけど、明良が好きだから嘘をつくぐらいなんてことなかった。


「嘘じゃねーって。好きだった人を無理に忘れなくていいだろうが。変な気を遣うなよ。」

『だけど…!』

「ごちそうさまー。うまかったぜ。」

『……』


ベンチから立ち上がり、携帯を開いた。

すると昼一番の授業の時間が近づいていた。


「おい、明良、早くしたほうがいいぜ?」


明良を急かしたがなかなか動こうとしない。

話をはぐらかしたのがマズかったか。

なんにしても予鈴が鳴ってから教室に向かうと授業に間に合わないから荷物をまとめ、明良の手を引いて立たせた。


「忘れもんねぇな?ほら行くぜ?」


明良は俺の手を振り払ってまで足を止めた。

なにを考えているのか全くわからず、俺は仕方なく明良の様子を見るために授業を捨てた。

予鈴が鳴ったのだ。


「明良?どうしたんだよ?」

『そう言われ続けたら…』

「は?」

『忘れたくてもずっと忘れられないじゃない!』


言いたいことを言ってすっきりしたのか、明良はまたベンチに腰を下ろした。

そして俺を見上げて言う。


『私は亮の気持ちが知りたい。』


俺の気持ちを知ったら明良は間違いなく潰れると思った。

だから言えなかった。

半年前、付き合うときに俺の気持ちを確認したきり、明良が俺の気持ちを聞くことは今までなかった。


『ねぇ、亮!』

「言えるかよ。明良が耐えられないってわかってんだからよ。」

『いつまで?いつまで私は亮を好きになれないまま過ごすの?』


そばにいることだけが明良にとっての愛情になると思っていた俺には衝撃的だった。


『あの人は忘れないよ。好きだから…だけど、亮を好きになれないまま隣にいるのはもっと辛いの。』

「なんでだよ?」

『それは……亮が生きていて、笑って、怒って、泣いて、愛してくれるから。』


たったの10秒で俺の考えは見事に一変した。

俺を求めている明良を引き、抱きしめて耳元で呟くように囁いた。


「忘れられるなら忘れちまえ。俺を見るために。」





A beloved lie
嘘が愛を生んだ





** END **
#2008.3.28

NO.300000
玲さまへ

タイトル意味:愛しい嘘



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!