[携帯モード] [URL送信]
ある春の日常


春の日差しが暖かく、教室の窓際の席は最高に気持ちがいい。

外に目を向けると体育の授業をしていた。

桜色の花びらが舞う中、ランニングしている男子テニス部活の先輩たちが見えた。

遠くからでも跡部先輩独特の強烈な雰囲気ですぐに学年がわかった。


『(あぁ、英文が呪文に聞こえる。)』


今受けているのは英語の授業。

英語が苦手な私にしたらただの子守歌にすぎなかった。

ぽかぽかと体を暖め、思考が今にも停止しそうな私は机にうなだれていた。

一方、前の席に座る日吉若は背筋をピンと延ばしていて、頭が振れる様子もない。

真面目に授業を受けているようだ。

えらい、えらい。


「早苗。」


ふと名前を呼ばれ、今にも閉じてしまいそうな目で日吉を見た。

とろん、ととろけそうな脳で日吉が授業中に私に声をかけてくる理由を考えようと努力した。


「プリントだ、」


理由が判明する前に答えが出てやる気を無くす私。


「まさか寝てたのか?」

『だってー春だよー?』

「だからなんだ。」

『春は眠くなるのー』

「睡眠不足なんじゃないのか?」

『違うよー春だからー』


そう言うとちょうど授業終了の鐘が鳴った。

すると教師がプリントは宿題だ、と言い残して教室を後にした。


『日吉ープリントわからないから教えてー』

「ダラダラ話をするな。さらに言うと自分でやれ。」

『えー…』


日吉が立ち上がるのを見て首を傾げていると変な目で見られた。

しばらくの間の後、次の授業は移動だと聞かされた。


『動きたくない!』

「サボる気か?」

『だって!日吉も座って春を感じなさいよ!』

「俺は『座れ!』


腕を引くとバランスを崩してドスンと音を立てて日吉が自分の席に座り込んだ。


『眠くなるしょ?』

「(それは早苗だけだ。)」


再び眠気を帯びた私はゆっくり瞼を閉じた。

世の中には“春眠暁を覚えず”なんてことわざがあるじゃない?

春の夜は短いからなんだか寝足りない。

さらに昼間は暖かいから眠くなるものなのよ。


『春は眠くなるの。』

「1年の時から早苗は毎日居眠りしてただろ。」

『……春は特別!』


そうこうしているうちに本鈴が鳴ってしまい、日吉はため息を吐きながら言った。


「つまり、サボりに付き合えと。」

『ピンポーン!』

「……」

『お願いー!一緒に寝よう?…ダメ?』


机に突っ伏していた私は日吉を見ると自然と下から見上げる形になっていた。

無意識に強請るような眼差しを向けていたらしく、日吉はしかめっ面をした後に肩を落としていた。

つまり、承諾してくれたのだ。


「たく、授業は今から行ってもどうせ遅刻扱いだ。」

『ありがとう日吉ー…』


私の机で頬肘をした日吉の腕に触れた私はそのまま眠りについた。


「早苗は本当に仕方ない奴だな。」

『ん、…ん?』

「わかってるのか、わかってないのか…俺は1年の時から早苗に振り回されてばかりだ。」


夢の中でも私は日吉といた。

彼が髪を優しく撫でてくれている夢だったんだけど、それがリアルに心地よくて、すごく安心して――


「俺が早苗に弱いこと気づいる…わけないな、こいつの頭なら。」


夢から目覚めたくはなかった。





ある春の日常
恋に目覚めるのはもう少し先なのかな?





** END **
#2008.3.26

最近、日吉に気持ちが寄りつつある



あきゅろす。
無料HPエムペ!