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君の歌声に恋をする


暑い夏――この時期の部活は毎年、挫折しそうになるが甘ったれた考えは許されはしない。

朝の練習が終われば、俺は足早に部室を出て校舎へ、そして屋上へ向かった。

この暑い中でも、屋上の貯水タンクの陰だけは涼しかった。

それを知る俺は迷うことなくその陰に来ると寝ころび、10も数えぬ内に意識を飛ばした。

こんな都会で頑張って生きる蝉には申し訳ないがあの耳につく鳴き声はかなり鬱陶しい。

それにイライラしていた俺の元に透き通るような、繊細で綺麗な一つの声が聞こえた。

どれくらい眠ってたかわからないが、そう少し遠くの方で聞こえた歌声で目を覚ました。

心地よい歌声にまた意識を手放しかけたときだ。

俺に歩み寄る足音が聞こえたかと思うと次の瞬間には頬にひんやりと冷たい感覚を覚えた。


「……なん?」


頬に当てられたものを手に取って見れば、キンキンに冷えた缶ジュースだった。

声の主を見ようとしたが残念なことに逆光で顔は見えなかった。


「誰じゃ…?」


“いつか――”


聞こえた声に反応して身を起こしたが彼女はあっと言う間に姿を消した。

スッキリしないまま教室にくると自分の席に座って早々暑さでうなだれた。


『仁王、またサボってたのー?』

「…あぁ、暑くてかなん。次の授業の教師に仁王君は暑さで溶けました、または蒸発しました――て言うといて。」

『バカ、』


席が隣である明良にそれだけ伝え、俺は再び机に突っ伏した。

屋上で聞いたあの声が気になって授業どころではなかった。



それから数日後、みなが部活に励んでいたが俺はやはり暑さでやる気が起きなかった。

真田に叱られますよ?という隣からの忠告さえも耳に入らなかった。


「仁王!」

「…なん?」

「暑かろうが練習メニューはこなせ!罰として練習後、グランド20周だ!」


そう罰を課せられても反論する気にもならなかった。

俺はバカ正直に部活後、一人でランニングを始めた。

部員に哀れまれている視線さえ気にならないとなればだいぶ暑さで頭がやられたのかもしれない。

走り始めて8周に差し掛かった頃だ。


あの歌、あの声が聞こえた。


ゆっくりと足を止め、あの時あの歌声に出会った場所である校舎の屋上を見上げた。

これだけ仲間の声に反応できなかったのにこの声にだけは即座に反応した。

音源は恐らく屋上だろうと予想をつけ、罰のランニングを放棄して走り始めた。


“いつか――”


階段をかけあがる度、あの歌声がよく聞こえるようになり、鼓動が早くなり、期待も膨らむ。

錆び付いた鉄の扉を前に俺は声の主に気づいた。

嬉しさから落ち着かないため、深呼吸をしてから扉を開けてこう言った。


「明良、今ん…もう一回聞かせてくれんかのう?」

『に、仁王!?ランニングしてたんじゃないの?』

「ランニングなんか続けられるか。」


明良を前に自然と速まる鼓動。

体は正直なもので考えるより体や口が先に動いていた。

結果、ランニングを放棄。


「その歌、俺への告白じゃろ?」

『……ち、違うってー!』


この暑さの中、はっきりわかるんは1つだけ。

俺は君が好きだということ。

再びこの歌を聞いて実感した――





君の歌声に恋をする
いつかあたしを迎えに来て、王子様





** END **
#2007.8.22

NO.17771
凛葉さまへ
告白するタイミングが掴めなかった仁王



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