まずはここから サボった時に向かう場所、と聞けば誰もが定番の屋上と答えるじゃろう。 俺もそう答える一人。 「かったるいったらありゃせん。」 「まさかサボるつもりですか。」 「そのまさか。」 「仁王くん、貴方って人は!」 「頭の悪い教師には適当に誤魔化しといてくれ。」 サボり宣言をし、柳生から説教を受けて(聞き流したが)俺は屋上へ向かう。 大きくて重い鉄の扉を開けて一番に目に留まったのは―― 『くっそ、私がなにしたってんだよ!』 同じ学年の早苗明良と言う名の生徒。 屋上のフェンスに八つ当たりして蹴りを入れているところじゃった。 「なにそんなにイラついちょるん?」 『(……仁王雅治、)』 「なんかあったんか?」 『アンタには関係ない!!』 「ま、おっしゃる通りやのう。」 俺はあまり気にはしないがうちの立海大附属の屋上には大抵“不良”と呼ばれる明良がいて怖くて誰も屋上に近づかん。 『こんなところに人が来るなんて…珍しいな。』 「残念ながら俺は不良なんかちぃっとも怖くないんよ。」 『……マジで珍しいね?』 「じゃって、俺も少し前まで不良やったもん。」 『嘘だろ。』 「これがマジなん。白っぽい髪にこの目つきにこの態度の悪さ。見た目だけで判断されて損するくらいならとことん悪くなってやろうと決めたんが始まりじゃ。」 『ふつう自分から悪くするか?』 「周りの声がウザくてしかたなかったん。それからは誰も近寄ってこないと思うたん。じゃけ――…」 そう古くもない話。 俺を本気で叱ってくれて、今では親友と呼べるヤツがおる。 アイツのおかげで変われたん。 『良い話じゃん。』 「そうじゃろ?笑」 青い空を見上げ、ため息を吐いた彼女。 まるで過去の自分を見ているようだった。 「そんなに頑張らなくてもいいのではありませんか?周りの方は貴方を怖がりますが、私は違います。」 『……なにがよ?』 「俺が言われた言葉じゃけ。」 『ふーん?』 「俺はそう言われて嬉しかったん。」 『………』 「きっと、明良も同じなんと違うか?」 『いきなり呼び捨てか。』 「食いつくとこそこなん?今、ものすごい良い話しとったのに。」 緊張の糸が切れたのか俺が苦笑すると彼女も少し頬を緩ませた。 今まで柳生が俺にしてくれたように今度は俺がしてやる番なんかもしれん、とそんなことを思う。 自分の過去のことを思い出し、ふと笑いが漏れれば隣で明良が気持ち悪がっていた。 怖がられて避けられて傷つくなら、二度と傷つかないように誰も近寄らせない。 そう誓い、自分を守るのに必死だった。 青かったのう。 「きっと、明良にもそんな理解者が現れるきに。」 『そんな人に会えるかなぁ?自分を理解してくれるような人。』 「絶対会える。」 『ペテン師に言われても説得力ない。』 「…なら、俺が理解者になっちゃる。」 そう言えば少し戸惑いながらも隠しきれない表情――嬉しそうに笑う彼女を見て思ったん。 「あーあ、いかんな。」 『なにが?』 「なんでもなか。」 不良なんて呼ばれているわけが理解できんかった。 じゃって、知らんやろ? 明良はふつうの可愛い女の子みたいに可愛らしく頬をリンゴみたいにして笑うんよ? 「(これは惚れ込みそうじゃ…)」 明良の印象を変えるには周りの協力がないとできん。 じゃけ、男に目を付けられると良い気はせんのう。 まずはここから 興味本位で近づいたのにとんだ計算違いじゃったな ** END ** #2007.6.29 (2008.3.19手直し) NO.5555 綾さまへ 人は見た目やなくて中身で勝負! |