それでも涙は流れる
ただ、出会えた奇跡に感謝しなければいけないのか。
でも、俺から明良を奪い去ることとなった元凶を恨むばかりだった。
『ごめん景吾。』
「ごめんとか言うな。本気なんだな?」
『決めたの。』
なんでおまえは別れる理由にくだらないことを言う?
俺は愛しているという言葉からあればそれだけでよかったんだ。
そう思っていた。
時が過ぎて俺は俺、明良は明良――それぞれ道を進んだ。
明良と別れてから誰とも付き合う気はなかったが別れたことを聞きつけた女から告白を受け、暇つぶし程度にはなると思い、OKを出した。
今も明良が好きだがその気持ちを忘れられたらラッキーだ。
ある日、デートに誘われて遊園地に来た。
にぎやかな音楽と楽しそうな笑い声に耳を塞ぎたくなる気持ちと戦い、歩いていた。
急に飲み物を買ってくると言い残し、女がいなくなる。
楽しくもない雰囲気にイラついていたと言えばそれまでだが…隣にいる女が明良ではないことに退屈になっていた。
やっぱり、眺めていても、話をしていても、一緒にいても――なにをしていても、なにもしなくてもそばにいるだけで幸せを感じる女は明良だけだと改めて思い出す。
深いため息を吐いたその瞬間、人とぶつかった。
『ごめんなさい!』
そう女の声が聞こえ、俺は瞬時に反応してその相手の手を握った。
握ったと同時に体全体で理解した。
変わらない優しい香水の香り、肌の柔らかさと手首の細さを。
そして、
『け、景吾…』
俺を呼ぶその声に全身が熱くなった。
愛してた女を放すまいという気持ちを握るその手が語っていた。
『ちょっと…痛い、んだけど。』
非現実的な考え方ではあるがやり直せる魔法の言葉みたいなものはないかと思考を巡らせた。
もしも魔法が使えたら――なんて乙女チックな考えなのだろう。
それだけ、彼女を取り戻すのに必死だった。
「明良…俺は――」
『わかってるくせに言わないで。もう私には責任を担って景吾と生きる自信がないの。』
俺にはわからない。
愛があれば乗り越えられない壁などないと思っていたからだ。
『彼が待ってるから放して。』
冷たくあしらわれたせいで俺の心は無惨にも傷つき、砕け散る。
言葉を交わすことさえ難しかった俺は最後の力を振り絞り、明良に尋ねた。
「彼ってのはふつうのヤツなのか?」
すると彼女は静かに頷いた。
震えが握っている明良の手首から伝わってくると緊張も高まる。
「俺のせいだな、」
疲れさせてしまったのは自分。
そんな現実をどうにも出来なくてただ、悔しさだけが感情を支配する。
結婚を前提に付き合っていたため、早くからふつうとは違う家庭の事情という重圧を知り、精神的苦痛や疲労を味わわせてしまったのだ。
「考え直して欲しい。待つから、」
『今度は景吾が疲れちゃうよ?』
「明良が戻ってきてくれるならそんなことぐらい…」
情けないが声が震えていた。
怖いのだろう。
『景吾…?』
「ん?」
『逃げてごめん。一緒に生きてあげられなくてごめんね。』
本当に愛してたからごめん、という一言に目元が熱くなり、視界が滲む。
ふつうの家庭に生まれていたら、明良とうまくいっていたのだろうか?
ふつうの家庭なら幸せになれただろうか?
そんなことを考えたり願ったとしてもなにも変わりやしないということぐらいわかってはいるが――
それでも涙は流れる
愛しいたのに彼女を壊した自分が憎い
** END **
#2008.3.17
書いてたら悲恋なった*笑
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