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愛しつづける


「なんて無力なんだ…」


わかってたけどわかりたくはなかった。

むしろ、わかってしまう自分に嫌気がさした。

最後に見たあの表情を俺は忘れもしない。


『景吾。私、もう少しで死ぬんだって。』


そう幼なじみである明良に告げられたのは今から半年前。


「冗談にならない冗談を言うのはやめろ。」

『…医者に余命、告げられた。』

「う、そだ…明良だって俺に治るって言ってたじゃねぇか!」

『ガン。かなり進んでたらしい。』

「……」


体調不良から入院していた明良は多くの検査を繰り返していた。

俺はいち早く明良の異変に気づいていた。


『私だって…私だって!死にたくないのぉ!!』


日に日に死を近くに感じているだろう本人が一番怖いんだ。

俺が明良の病を受け入れなければ、明良は今よりきっと辛い思いをするはず。

そう考えるとなにもしないではいられなかった。


「…悪い。明良は元気になるって信じきってたから。」


なにかしてあげることで少しでも長く生きることが出来ると言うなら、俺は喜んで自分の身を削る。


「これからは明良とずっと一緒にいる。」

『…いいよ。それより大学行かないと。』

「大学より明良が大事だ、」


最善を尽くしたい一心で大学は休学し、24時間体制で明良の世話をすることにした。


夜、辛そうに呼吸をしていると気休めではあるが背中をさすってやる。

そんなことくらいしか出来ないもどかしさに唇を噛んだ。

逆にあり得ないくらい静かに寝ていれば、時が来たのではないか…と心配になり、寝られないときもあった。

寒いと震えれば布団を被せたり、電気アンカを用意したりしてやったよな。

寂しいと泣き始めれば抱きしめて寝てやった。


「明良、幸せだったか?」


長くないこと、わかってた。

でも、時たま見せる笑顔がその考えを打ち消した。


「ずっと一緒にいられるような気がしてた。バカだよな…」


昨日、まともに水を口に出来なかった明良の容態は今朝になり、急変した。

顔色があっと言う間に変わり、苦しそうにせき込む。

声にならない声があまりに弱々しいから嫌な予感はした。

現実からすると答えは――


“もう助からない”


それでも、


“明日になれば元気になってるかもしれない”


なんてひどく矛盾した考えが頭をよぎっていった。

そう考えたかったんだ。

明良を愛していたから考えたくなかった。


『け……ご、』


誰よりもそばで明良を世話した人間なのに一番肝心な時に何もしてやれなかった。

息を引き取ってから言っても仕方ないことだが後悔している。





なんて無力なんだ――。





自分を異常なまでに責めてみる。

でも、きっと明良は俺を少しも、そうこれっぽっちも責めやしないだろうな。

それは明良も俺を愛して、そばにいることに感謝していたから。


『景吾、いつもそばにいてくれてありがとう。』

「当たり前だろ。明良のためだ。」

『…愛されてるな〜私って。』

「ふん、今更。」


明良の一言があれば俺は救われる。

なぁ、聞かせろよ。


「明良?…明良は幸せだったか?」


明良から直接答えはない。

その代わり、


『景吾、私ずっと景吾を愛してるよ!』


春――桜色の暖かい風が頬を撫でていった。





愛しつづける
君のすべてを忘れなければ、君は俺の中で永遠に生きつづける





** END **
#2008.3.14

愛する家族に捧ぐ

2008年2月1日生まれ
命名 シャルロット(♀)

2008年3月14日永眠





あきゅろす。
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