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ここにいた


テニスがなにより好きだった俺はある日、見つけてしまったのだ。

ある物を――



部活中、ウルサいと言うより喧(やかま)しい声援が飛び交う。

その中で愛しい明良の声が聞こえた気がして振り返り、フェンスに張り付くギャラリーを見渡した。

自分でも自分の聴力を疑う。


『雅治〜頑張ってね!』


そこには確かに明良がいたん。

彼女が見ているなら、と気合いを入れて部活に取り組んでいたためか、時間が早く流れていった。

俺が楽しみにしとうのは部活後。

数少ない彼女といられる時間。

もっと一緒にいたいと思うのはただのわがままに過ぎないかもしれんが、それは正直な気持ち。

そう考えだすとテニスさえ、どうでもよく思えてくる。

明良は麻薬みたいな存在だ。



いつも待ち合わせてる場所に向かうとそこには遠くを眺めてる明良がいた。


「お待たせ、」

『お疲れさま。』

「帰りますか。」

『はーい。』


駆け寄ってくる明良に手を差し伸べると彼女は照れくさそうに笑いながらそれを握ってきた。

そして、互いに目を見合わせ、自然と笑い合った。


『すっかり春だね?』

「日差しが暖かいもんだからついつい授業中うたた寝してしまうのう。」

『夜更かしし過ぎなんじゃない?』

「違う、」


他愛もない会話を交わす。

二人で歩く帰路がもっと長ければいいのにと何度も思うくらい、明良と話をしとうのが好きじゃ。


『あ、こんなところにタンポポ。』


地面の割れ目から顔を出していた黄色い花に目を留めた明良。

それをしばらく眺めてから彼女は口を開いた。


『まるで私みたい。』

「なんでそう思うん?」

『タンポポはどこにでもある花。誰かが特別に目を留めることはないもん。例えこんな風に頑張ってても、雑草の努力なんて――』


明良はタンポポを自分と重ねて見ていた。

しかし、彼女の発言には誤りがいくつかあった。


「確かにどこにでもある花かもしれんがこの…ここに咲いとうタンポポはここにしかないん。」

『…そっか、』

「それに今、明良はこのタンポポに目を留めたじゃろ。」

『それはこのタンポポが頑張ってるから…』

「そこじゃ。俺が“タンポポ”に惚れた理由。すべてにおいて懸命な姿に心打たれたん。」


目立つような性格じゃないためか人目を惹くわけではなく、人から慕われはする好かれることはない。

どこにでもいるような普通の子。

それを思ってか、付き合って3ヶ月経つというのに未だに俺が明良を選んだことが信じられないらしい。


「明良、俺は明良をどこにでもいるような子とは思うとらんよ。」

『どうして?』

「明良はみんなとは違うもんを持っとう。」

『例えば?』

「俺を愛する気持ち。」


そう発言してからしばし間が空いてしまった。

違うのか?と尋ねれば、彼女はハッとして応えた。


『好き。』


積極的でよく気づき、素直で優しくて、温和な平和主義――そして、よく笑う天然な明良。


「明良はどこにでもいるような人間じゃなか。つか、あちこちにいられたらそれは明良じゃなかよ。」


俺が明良を好きになった理由を考えるとわかるはず。

その時点で論証してるじゃろ?

こんなにも愛せる女は世界中探してもいないと思うんよ。


「明良は俺にしたら特別なん。」





ここにいた
俺が唯一好きなタンポポを見つけた





** END **
#2008.3.5

NO.280000
莢さまへ



あきゅろす。
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