[携帯モード] [URL送信]
赤く染まった涙


あの事からそう日は経っていない。

カレンダーを見る限りでは1週間も経っていないなんて嘘みたいだ。

あんな記憶だからそこ、遠い過去の記憶として忘れてしまいたかった。


『なんでここに来ちゃったのかな?』


目を瞑れば蘇る。

真っ赤に染まるあなたが――


『どうしてこんなことになったのかな赤也?』


誰かが教えてくれるわけではないけど、呟かずにはいられなかった。



――切原赤也。

高校3年の時、同じクラスになって、隣の席になったことをきっかけに仲良くなった男子。


「早苗〜ノート見せて?」

『またー!?』

「だって聞いてても全然わかんねぇんだもん。」


付き合う一歩手前までの関係だった。

どちらかが告白していれば確実に付き合っていたと思う。

でも、ある日――


「明良、仁王先輩って覚えてる?」

『テニス部のOBでしょ?』

「…その先輩がさ?明良と付き合いたいんだってよ。」

『え?』


一瞬でも動揺したのが悪かったのかな?

仁王先輩と言えばかなり有名で格好良いと評判のある人だった。

嘘でも自分みたいな女に目を留めてくれたと聞いてただ嬉しかった。


「よかったなー仁王先輩の目が節穴で。」


それを悟ったのか、赤也が“いつもみたい”に悪ふざけ口調で言う。

私は“いつも”と違うことに気づいた。

もしもこのとき、赤也の話を軽く流していたら私たち幸せだったかもしれないのに。


『どういう意味?』

「明良みたいな女を好むなんて頭どうかしてるぜ。」

『……』

「だいたい、こんながさつな女を彼女にしたら毎日大変だってわかんねぇのかな?」


好きな人にこうもボロカスに言われて冷静に判断が出来なかった。

傷ついて当たり前だとは思う。


『そんなの赤也だって同じじゃん!いつもだらしない男を好きになる人なんかいないんだから!』


売り言葉に買い言葉、なんて言い訳にすぎないけど反論せずにはいられなかった。

こうして小さな喧嘩によって出来た溝はやがて、大きな溝へと成長していった。

数日もしない内に席替えをしてしまい、それっきり赤也と話すことはなくなった。


高校の卒業式の日。

幾人かの友達が私に近づいてきて口を揃えてこう言った。


「切原の奴、1つ下の子に告られてOKしたんだって!明良いいの!?」


いいもなにも赤也が決めたことだし、私にはなにか言う権利はない。

仕方ないことだ、と自分に言い聞かせた。

その日、なんとなく勢いで前々から交際を迫っていた仁王先輩にOKを出した。

彼が赤也とのことを忘れさせてくれると思ったの。



――春、大学に上がると仁王先輩といることが多くなり、赤也を目にすることは減った。

赤也は彼女とうまくいっているのか、たまにツーショットを見かけた。

負けずと私たちもよく二人で出かけていた。

これはそんなある日のデート中の出来事。


「明良は昼、なに食いたいん?」

『ん〜…今日は雅治が好きなものにしよう?』


暖かな日差しの中、周りのカップルにとけ込んで交差点に立っていた。


「(明良と仁王先輩…?)」

「赤也、前ーっ!!」

「――!」


すると二人乗りをしていた一台のバイクが交差点に進入し、車と衝突した。

交差点で信号待ちをしていた人がすぐにバイクと車に駆け寄った。


「誰かー!!救急車だ!!」

慌ただしくなる現場をただ私たちは遠くから見ているしか出来なかった。

それぐらい、慌ただしかった。

やがて救急車が到着すると隊員がバイクに乗っていた人間を担架に乗せた。


『あ、かや…?』


人の間から一瞬見えた顔に蒼白になる。

見間違えたりするわけがない。

あれは紛れもなく――


「アイツ、バイク乗っとったんか!?」

『嘘、赤也…赤也ー!!』

「明良、行ってどうするんじゃ!!」

『放して!赤也が、赤也がぁ!!』


切原赤也。


『赤也ぁぁぁ!!』


即死だったんだってね。

なんで事故なんか、と思い始めると涙が溢れる。


「なんじゃ、やっぱりここか。」

『雅治、…ごめん。』

「いんや?知ってて明良と一緒に居るんじゃから謝られても困る。」


最後に見たあなたの顔は忘れない。

私の中の赤也は今も苦い顔をしている。

だから、私の流す涙は今日も赤也への思いで染まる。

きっとこれからもそう。


どうしていたらこんなことにならなかったのかな?

やり直せるなら全てやり直したい。





赤く染まった涙
結果、すべて間違ってたことに気づくのが遅すぎたんだ――





** END **
#2008.3.3

來恋ママの過去の恋愛話を元に



第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!