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9 大切にするから


「おい、大事な届けをそんな無碍(むげ)に扱うな。」

「気にしなさんな、」

「気にする!」

「まぁまぁ、景ちゃん。」


仁王が婚姻届けを受け取り、財布に挟めたのを見て景吾が不安そうに言ったのだ。

言い合いをこももが止めようとしているのを見て向日が笑った。


「こもも…幸せそうだな。」

「向日が羨ましと思ってる確率95%だ。」


それを見た柳がそう言うと忍足が哀れんだ目で向日を見た。

しかし、その目はどこか妖しく光っていた。


「そうなんか岳人ー」

「だって幸せそうじゃん!!」

「やったら跡部に女体化する薬作ってもらうか!」

「……なにすんだよ?」

「岳人を女にして俺が娶(めと)るん。」

「バッ、冗談言ってんな!!」


これはこれでいいとして。

みんながこももたちを祝福していた。

彼らも――


「こももちゃんが娘になるなんて嬉しいわ。ね、省吾?」

「あぁ。」


そう、景吾の両親も喜んでいた。

それは両親を亡くしたこももも同じだった。


「省吾さんがパパになるなんてなんか嬉しいな!」

「ふ、可愛いヤツだ。さぁ来い。」


省吾が両手を広げるとこももは駆け寄り、なんの抵抗もなく抱きついた。

それを見た景吾は明らかに不機嫌そうな顔ですぐにこももを奪い返した。


「父上、俺のこももに触らないでください。」


すると省吾は不服そうに眉をしかめ、それを見た彼の妻(景吾の母)は笑いながら言う。


「こももちゃんも跡部財閥の一員になるなんて華だわ。」


それを聞いた、こももは眉をハの字にすると申し訳なさそうに言った。


「すいません。結婚しても跡部を名乗れません……っ、その…」


言葉を詰まらせたこももの頭を撫でると景吾が代弁した。

苗字に関しては景吾と初めから約束していたことだったのだ。


「仁王って名前だけはなくしたくないんだとよ。」

「こももを可愛がって育ててくれた雅治のこと忘れたくはなくて。」


こももがそう言うと仁王が会話を聞きつけ、声をかけた。

気持ちはわかるが“もうペットではない”という自覚しているのか不安に思ったのだ。


「跡部こももになるんじゃろ?」

「モデル名を仁王こももにしたのは理由があるの。」

「なん?」

「こももだけでもよかった。でも雅治のおかげで“こもも”になれたことを忘れたくなかったの。」

「バカやのう、」

「じゃないと……こももがいなくなったら雅治が一人になっちゃうから…」


そう言ったこももを仁王は抱きしめた。

嬉しさや寂しさに負けそうになる顔をこももには見せられないと思ったのだろう。


「跡部はそれでいいんか?」

「こももが仁王をどれだけ好きかわかってたから俺はいい。こももからそう話をしてきたし、約束したからな。」


景吾の配慮に嬉しそうに笑うと仁王はこももを手放し、景吾の方へ向き直らせた。

すると景吾はこももの指に指輪をはめ、それにキスを落とした。


「本当に幸せにせんかったら、俺が跡部財閥を跡部景吾の代で潰しちゃるからな。」

「あん?くだらねぇこと言うな。幸せにするに決まってんだろ。」


景吾と仁王はお互いを見て鼻で笑い、互いに手を取り合って握手を交わした。

それを遠くから見ていた宍戸がリョウを無言で抱き寄せた。


『亮、どうしたの?』

「……先越されちまった。」

『え?』

「激ダサ、俺。」

『なにが先越されたの?』


リョウは宍戸の考えを悟ることなく目をぱちくりさせていた。

その表情を見て宍戸は笑いながら言った。


「結婚式。いつも一緒にいるからもうリョウを妻にした気でいたぜ。」


彼がなにを言いたいのかなんとなく悟ったらしく、リョウは目を潤ませた。


「愛してるって毎日言うし、そばにいてくれとも言う。なのに“結婚してくれ”とは言ったことなかったな。」


宍戸はギュッときつめにリョウを抱きしめるとその耳元で誰にも聞こえないくらい小声で囁いた。


「       」


リョウはそれを聞くと嬉しそうに笑い、宍戸に抱きついて喜んだ。

こももの着ていたドレスを宍戸はリョウに視線で指し示した。


「あれ着せてやるよ。フランスへ帰る前にな、」


宍戸はリョウを抱き上げ、景吾たちの元へと歩いていった。

それを見ていた景吾はこももと顔を見合わせた。


「跡部、リョウにもドレス着せてやってくんねえか?」

「そうくると思ってたぜ。」


景吾は宍戸の発言を読んでいたらしく、ニヤリと笑うと仁王に耳打ちした。

すると彼ははいはい、とダルそうに返事をしてリョウの手を取った。


「着せちゃる。」

「あ、雅治!こももも行くよ。二人きりだと宍戸くんが心配するからー」


仁王とこももにリョウが拉致されてから数十分後。

待ちに待ったお披露目となった。


『「さて、どっちがどっちでしょう?」』


両手に花だ、と密かに喜びながら仁王は同じ髪型で同じドレスを着た二人をエスコートしてきた。

リョウとこももの問いは景吾と宍戸にしたら簡単な問題だった。

二人はお互いのパートナーの腕を掴み、抱き寄せた。


「俺はリョウを初めから見間違えたことないぜ?」

「俺様もさすがにこれだけ一緒にいれば見間違えねぇよ。」


二人の答えにリョウもこももも満足そうに微笑んでいた。

正しく組になったところでその場にいたみんなが改めて景吾とこもも、宍戸とリョウの結婚を祝った。


「「結婚おめでとう!」」


その日、二組の新婚夫婦が誕生し、結婚記念日として祝われた。

それと同時にその日、世ではこももが景吾宛に書いた本が仁王の手によって出版されたのだった。

それから半年後――





あきゅろす。
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