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7 幸せになりたい


景吾は見ていた本を抱きしめた。

自らの字で書かれた本。

犬の視点で書かれたものだったが彼にはこももの言いたいことが十分伝わっていた。


「こもものバカ。」


こももの気持ちが嬉しくてその書かれた本を眺め、余韻に浸る。

しかし、ふとメイドとのやりとりを思い出して立ち上がった。


「アイツ、来てるんだよな?」


そう呟くと携帯が鳴った。

表示されたのは期待していたものではなかったがすぐに電話に応じた。

相手は仁王だった。


「もしもし?」

「あぁ、跡部?」

「あぁ、どうした?」

「こもも行ったか?」

「来たみたいだな。」

「なん?会わんかったか?」

「は?」


跡部の反応から仁王は眉をしかめていた。

それと同時に彼はこももに騙されたことを知った。


「俺を騙すなんて100年早いん。」

「ちょ、わけわかんねぇから説明しろ!」


仁王は景吾に状況を説明することにした。

こももとの約束、確かにそれを果たし、“景ちゃんに会った”と連絡が入ったことも。

こももが嘘をついていないとするとさっき景吾の部屋に来たメイドが怪しい。

“会った”という言葉が一方的なら、こももはメイドに化け、相手からは知られないようにしたとも考えられる。


「まぁ、なら近くにおるじゃろ。」

「探し出す、」

「待ちんしゃい、俺がうまく誘い出しちゃる。」

「なら○○セントラルパークに呼べ。」

「はいはい。」


仁王は景吾と連絡を絶つとすぐにこももに電話をかけた。

頭の隅で“臆病者”と小言を言いながら。


「はーい、どうしたの雅治?」

「あ〜こもも?今どこじゃ?」

「雅治もしかしてもうボケた?こももは今、アメリカ。空港まで送ってくれたじゃん?」

「そうじゃなか。俺も実はアメリカ来たん。だから待ち合わせせん?○○セントラルパークに10時半。じゃあ、後で。」

「あ、ちょ!」


仁王は一方的に電話を切った。

いろいろ問い尋ねられてはややこしくなると察したからだ。


「あとは跡部にお任せー」


彼は笑いながら仕事に向かう支度を始めた。

端から見ればただの鬼だがそれもこもものためなのだ。


一方、こももは疑問を抱きながら時間通り待ち合わせ場所に来た。


「なんで雅治付いてきたんだろう?」


こももは嫌な予感がし、携帯を見つめる。

留まるか、逃げ出そうか躊躇していた時、背後から声が聞こえた。


「待たせたな。」

「!」


こももは顔を上げるのが怖くて足元を見ていた。

スーツを着ていると思われる彼、独特な声質は間違いなく跡部景吾だ。


「わざわざメイドに化けやがって……会いに来たなら顔くらい見てぇだろ。」

「……ひ、さしぶり景ちゃん。」

「なにが久しぶりだバカ!」


力を振り絞って挨拶したのにバカと言われてこももは体を強ばらせた。

今のこももはなにに怯えればいいかわからなかった。


「この本はなんだ?」


不機嫌そうに聞こえる口調にこももはたじろぐ。

しかし、ふと宍戸の言葉を思い出したのだった。

“幸せになりたいって思うことだな”

顔を上げ、景吾の目を見てこももは答えた。


「こももの素直な気持ち。」

「おまえが玄関で待つのは誰だ?」

「……景ちゃん、」


しかし、やはり自信がないのか尻すぼみになる声。

そんなこももを彼は力一杯抱きしめた。


「く、るしッ」

「……バカ。ずっと帰ってくるの玄関で待ってたのは俺なんだよ。」

「え?」

「おかえり、“こもも”。」


彼はこももが自分自身を受け入れるまで待っていたのだ。

こももがこももとなれたときに初めて“おかえり”と言うことが出来ると思っていたからだ。


「おかえり、こもも。」


迎え入れてもらえたことを全身で感じ取ったこももの目から涙がこぼれ落ちた。


「お望み通り、愛してやるぜ?」

「バカぁ。」

「俺は今までリョウが好きだった。だが、それ以上にこももが好きだ。」

「……うん、」


景吾はこももを抱き上げると歩き始めた。

彼にとって彼女は――


「ペットよりも愛らしい人。」


常にそばにいる犬よりも大切な存在で、こももにとって景吾は――


「心のよりどころ。」


寂しいときそばにいてくれる飼い主より大切な存在なのだ。

互いに恋愛と呼ぶには歩みが遅いものだったかもしれない。

しかし、本当の自分を受け入れた今、二人は共に歩んでいくのだ。





あきゅろす。
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