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4 終わりにしよう


仁王が部屋からいなくなると景吾はこももを抱き上げた。

これからなにをされるかわかったこももはため息混じりに言った。


「……全く、しょうがないな。」

「いいだろ?」

「はい、」


こももをベッドに運ぶと景吾は上の服を脱ぎ捨てた。

それを眺めているこももにイラッとし、景吾は言う。


「脱げ、」

「自分で脱げって言うの!?」

「俺に見せて見ろよ。」

「ッ、バカ!」


こももは服を一枚、一枚と脱ぎ捨てると下着だけになった。

その姿を見て満足げに笑う。


「相変わらず綺麗だな。」

「ヌード写真出したら売れるかな?」

「バカ、んなもん見たキモい男が自分で自分をシゴくこと想像してみろ。」

「生のこももを見た男が起たせてるのも微妙〜」

「あん?うるせえよ。そんなこというのはこの口か?」

「んッ!」


景吾はこももを引き寄せると唇を奪い、それを味わうように何度も唇を重ねた。

ベッドに入り、裸になった二人は愛撫し合った。


「女を抱きしめてると暖かくて柔らかいから安心するな。」

「変態発言、」

「あん?おまえだって男に抱かれてると幸せだろ?」

「ちょっとゴツゴツした身体がね、妙に安心する。」

「アホ、」

「うるさいなぁ……それだけ景吾さんの身体が好きなの。安心するの。」

「だからリョウの真似をなんでするんだよ。」

「景吾さんが少しでも喜んでくれるから、」

「……」


景吾はこももにそう言われ、なんとなく気づき始めていた。

彼女の心痛に。


「こもも、おまえは“仁王こもも”として誰かに認められたいんじゃなかったのか?」

「……リョウちゃんの代わりでいいの。」

「なんでそういう風に言うんだよ!!」


景吾は慣らさずに無理矢理こもものナカにねじ込むと彼女の顔が歪んだ。


「それとも「こももとして見てくれるのは飼い主だけだもん!!」

「そんなことっ!」

「……もし、こももを好きになった人がいたとしてもリョウちゃんの存在に気づけば、こももは捨てられる。」

「そんなのわかんねぇだろ!?」

「それか、セフレとして散々抱くだけ抱いて捨てるんだよ。良い金蔓(かねづる)だしね。」


そうしみじみと言ったこももの頬に景吾は優しく唇を落とした。


「じゃあ、こももとして抱いてやる。」

「いい。」

「なんでだよ。」

「怖いから……また捨てられるって、怖いからリョウちゃんの代わりで良いの。」

「逃げてんじゃねえかよ。」

「……じゃあ言うけど、“仁王こもも”ってなに?」

「っ!」


景吾は“こもも”がどんな人物か答えることが出来なかった。

悔しさから唇を噛んだ。


「早くしてほしいな、この状況は辛いよ?」

「あ?あぁ、悪い。」


その夜、お互い納得いく状態に燃え立たず、辛いまま朝を迎えてしまった。

景吾がこももより早く目を覚ますと彼は頭を抱えた。


「……俺はこももとして見てる。でもお別れだ。」


それだけ言い残すと景吾は支度をして寝室を出た。

そこには仕事から帰った仁王がいた。


「戻るんか?」

「……仁王、帰ってたのか。」

「こももとなにあったか知らんけど「悪いな仁王。俺、こももとはもう会わない。」

「なん?」

「……リョウと重ねて見てるつもりはない。でもな?こももをこれ以上傷つけられない。」

「……そうか、それは仕方なかねえ。」


景吾は荷物を持つと仁王が車の鍵をチラつかせた。

“送るか?”と言いたかった仁王に景吾は首を横に振った。


「タクシー拾う。」


景吾はそう言い、出ていった。

それから数十分後、こももが目覚めた。


「……景ちゃん?」


隣にいたはずの景吾がいなくてこももはふらふらとリビングに来た。


「雅治…?」

「お。おはようさん……って、服くらい着てきんしゃいよ。」


素っ裸で寝室から出てきたこももに仁王は自分が着ていたパーカーを羽織らせた。


「景ちゃんは?」

「帰った。」

「ふーん?―――え?」

「だから帰った、」

「アメリカに?」

「あぁ。」

「う、そ……」


こももは信じられなかったらしく、家中の扉すべてを開けて確認して走った。


「……なんで黙って言っちゃうの!?」

「もう会わないらしい。」

「……え?」


そう言われ、頭が真っ白になるこもも。

目が白黒する状況で目眩を引き起こした。

見かねた仁王はバイクの鍵を取り、ヘルメットをこももに投げた。


「バイクなら空港まで20分じゃ。」

「……少し待って!」


こももが慌てて支度をしに行ったのを仁王は見て、ため息混じりに笑いながら言った。


「まだまだ青いのう、」


仁王が特別落ち着いているのかもしれないが。


「雅治行ける!」

「はいはい。」


軽く化粧をしてきたこももを見、仁王は手を握ってやる。

その手が震えていたのだ。

部屋を出てすぐに駐車場へ向かった。

バイクに掛かる青いシートを取り除くとよく磨かれた真っ黒なバイクが姿を現した。


「とばすからしっかり掴んどきんしゃい。」

「うん、」


勢いよくアクセルバーを捻るとバイクが唸り、発進させた。

それをタイミング良く見ていた後輩たちがいた。


「あ!丸井先輩?前から来るあれ、絶対に仁王先輩のバイクっスよ?」

「ホントだ。まったく、アイツ絶対に法定速度守ってねぇ。」


すごい勢いですれ違った丸井と切原に手を振ったこももを見てますます言うのだった。


「こももを乗せてんなら真面目に運転しろっての。」

「まあ、急いでるってことで(笑)」


現在のスピードメーターの表示は120キロ、警察に出会うと確実に免許取消だろう。

しかし、仁王はこももの為にそんなことも恐れなかった。

警察にご挨拶することなく、無事に空港に着くと仁王は駐車場にバイクを止めた。


「バイクってのは車が渋滞しとっても横をすり抜けられるから便利じゃ。」

「確かにね。」

「って、なにしとう!早よういきんしゃい!!」

「うん、ありがとう雅治!!」


こももは空港内に来てすぐにサービスカウンターに駆け込む。

景吾の居場所など全く知らなかったからだ。


「すいません!アメリカ行き、9時27分発の飛行機のロビーってどこですか!?」

「はい、二階のB64になります。」


そう聞くと“どうも”と手短にお礼を言い、こももは景吾の元へ向け走った。


「景ちゃん……」


時刻は9時2分。

搭乗口前のロビーに入るゲートを潜られては話ができないため足を早めた。


「跡部景吾ぉぉお!!」


搭乗時間まで間がないため、景吾を引き留めようと叫んだこももの声は広いロビーで響いた。

周りは仁王の母親が経営している化粧品会社の専属モデルがいる、と騒ぎになり始めていた。


「こもも?」


彼女の声に自然と振り替えった景吾は大勢いる人から見つけるのはたやすかった。

周りがこももに視線を向けていたからだ。


「け、景ちゃん、のバカぁ!」


景吾の元まで来るとこももは彼に飛びつき、服を握り締め、揺すりながら訴えた。


「なんでなにも言わないで行っちゃうの!?」

「……もう、おまえには会わねえよ。」

「な、んで?」

「俺が好きなのはおまえじゃない。」

「……」

「俺はおまえが嫌いだ。」


景吾の言いたいことが理解できず、こももはただ涙を流し、景吾を見つめていた。





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