3 誰だろう?
日本に帰国している一週間、こももは景吾と過ごす予定で仕事を空けていた。
それは景吾も承知の事だ。
「んッ、」
「……こもも?」
ぐっと背伸びをしつ目覚めたこももに注意を向ける景吾。
「景ちゃん、おはよう。」
「あぁ、」
「……まさか寝てないの?」
「寝たぜ?」
「うそ!なんか顔が疲れてるもん。」
景吾がベッドにこももを運び、彼女は安らかに眠れたのだ。
しかし、景吾はこももとリョウの顔を重ねてみている自分がいるのではないかと考え続け、眠れずにいた。
「少し寝ない?」
心配そうに景吾の服の裾を軽く引っ張り、顔をのぞき込むこもも。
「いい、折角の休日を寝て過ごしたくはない。」
「普段あまり寝てないならいいじゃない?」
こももは無理矢理景吾をベッドに引き込むと優しく抱きしめた。
「少し休んだら?」
「……あぁ、」
「景ちゃんは頑張りすぎだよ。いつだってね?こももはそれを知ってるから心配しちゃうの。」
背中をさすられ、景吾に寝むるよう促し、彼はこももに身をゆだねて寝ることにした。
丁度お昼頃だ。
“景吾さん?”
夢の中でリョウが自分の名前を呼んだ。
「ッ!…はぁ、はぁ、はぁ、」
「……大丈夫?」
急に起きあがり、汗を額に浮かべて俯く景吾にこももは枕元にあったタオルで汗を拭おうとした時だった。
「触るなっ!!」
「……ご、ごめん。」
急に景吾の態度が変わり、こももは驚いて体を強ばらせた。
理由もわからず、こももは景吾に怯えていた。
「…あ、その…こもも?」
「休んでなよ。ご飯作ってくるから、」
「待て、こもも!」
一人にさせておこうと考え、部屋から出ていったこももだったが彼はひどく後悔していた。
しかし、仕方がない。
そう、未だに景吾はリョウが夢に出てくるのだ。
「なんでっ!」
なぜそうも動揺するのか。
そんな弱い自分を見せたくはないのに。
「景ちゃーん、ご飯できたよー」
こももまでを傷つけてしまうことが悔しくて涙を浮かべた。
「景ちゃん?」
ケロッとした顔で景吾のところにフライパン返しを持ち、近づいた彼女に疑問を投げかけた。
「んで、おまえは俺といるんだ?」
「へ?なに急に。」
「俺なんかとなんでいてくれんだ?」
「なんでって?だって……友達、でしょ?大事なね、」
そう景吾に伝えたこももは呆れながら笑っていた。
「ほら、ご飯!!」
景吾はこももに半ば引きずられ、テーブルまで来ると口の中にフレンチトーストを突っ込まれる。
こももはなんとか景吾を元気付けようと必死だった。
食事を済ませた時点で時はかなり過ぎていた。
「これからどうする?侑士たちに会いに行く?」
「仁王は?」
「雅治は仕事、」
「そうか。ならそれでもいいぜ?」
支度をしてくると伝え、パタパタと音を立てて走っていったこももを横目にテレビをつける景吾。
「!」
たまたまやっていたテレビ番組の特集の中継で若い建築家として評価されている宍戸の姿があった。
こんな時に宍戸の姿を見たくなくて、すぐにテレビを消すとこももの元に行った。
気を紛らわせたくて部屋であたふたと着替えるこももに手が出る景吾。
「あ、ちょ、なにするのぉ!」
下着のホックを外され、再びあたふたとする。
そして、着替え終えると心配そうに景吾の顔をのぞき込んだ。
「……景ちゃん?」
「あん?」
「侑士たちに会うのやめとく?あ、来てもらうって方法もあるけど?」
なにを考えてるのか、黙り込んだ景吾。
こももはふぅ、とため息を吐きベッドに腰掛けた。
なにかあったことを察したこももはこう言った。
「リョウちゃんが恋しくなってきた?」
「……いや、」
「じゃあどうしたの?」
景吾はこももの前に屈むと彼女の膝に手を乗せた。
「俺はリョウにまだ未練があるのか?」
『……さぁ、それは景吾さんが一番よく知ってると私は思うけど……』
こももにこももの真似をされ、胸を痛めた景吾は明らかにどうようした声でこももに尋ねた。
「なんでリョウの真似なんかすんだよ。」
「こももはリョウちゃんの代わりだからね。」
「俺はこももはこももとして見てる。」
「どうだろ?宍戸くんだって結局は身代わりにしてたし……みんな同じだよ。」
こももは柔らかく微笑んだ。
それを見て景吾は眉をしかめた。
「身代わりでいいのか?」
「……みんながいいなら、それでいいかな。」
そう言ったこももを苦しめているのは自分自身だと景吾は知っていた。
それから自分のわだかまりをどうすることも出来ず、数日が過ぎた。
忍足たちに会い、買い物をしたり、散歩したり、ただなんとなく時間が過ぎていた。
「なんかあっと言う間だね〜」
「明後日、一週間分の仕事がつまっちょるよ?」
「うえ、マジ?」
「まぁ、CM1本と雑誌の取材2本。」
「そんなに入ってんの!?」
「一週間分、言うたじゃろ?」
こももと仁王のやりとりを見て景吾は口を開いた。
「仁王、あんまりこももを無理させんなよ?」
「はいはい、」
「……雅治、どっかで携帯なってるよ?」
「……あの音は姉貴か。」
「呼び出し?」
「はぁー」
仁王は携帯を探しに自室へ戻った。
その姿が見えなくなったのを確認して景吾は口を開いた。
「こもも?」
「なに?」
「今日は俺と一緒に寝ろ。」
「毎日一緒じゃない?」
「そういう意味じゃねえよ。」
「…なに?欲求不満?」
「当たり前だろ。」
「当たり前なんだ(笑)」
笑いながら景吾の頬や髪を撫でるこももに腕を回す景吾。
なにかが起きそうだったそのとき、タイミングよく仁王が戻ってきた。
「こもも、姉貴のトコ―――ってなにしとう?」
「景ちゃんが欲「なんでもねぇ!!」
「あ、そ。由紀ねぇのトコ行く。明日は跡部を空港まで送るから待っときんしゃい。」
「わかった、」
仁王はバタバタと玄関に向かうと景吾にひとこと言った。
「跡部、妊娠させたらいかんぜよ?」
「うっせ!さっさと行きやがれ!!」
「はいはい。」
仁王は笑いながら部屋を後にした。
どうやら電話を片手にこももたちの会話を聞いていたらしい。
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