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2 悪戯と詐欺師


景吾は椅子に座らされるとあっと言う間に料理がテーブルに並んだ。

仁王が車を車庫に入れ、部屋に帰ってくると食事を開始した。


「なかなか家庭的な味だな。」

「雅治のママと由紀ねぇに仕込まれたしね(笑)」

「味は悪くないじゃろ?」


仁王がそう景吾に聞くとこももは景吾の返事に耳を傾けた。


「あぁ、うまいぜ?」

「……よかったぁ〜」


こももはその返事に安堵し、ふにゃっと表情を緩ませた。

安堵するのもわからなくはない。


「景ちゃんはお口が肥えてるからこももの料理なんかって思ったんだけど。」

「え?あ、いやそんなことはないぜ?これはこれでうまいから。」

「なら良いけど。あ、デザートにケーキ焼いたの!」


“こももの自信作”と目を輝かせて言う彼女を見て、景吾も表情が緩んだ。


「跡部、ワインがいいか?」

「あ、こももも欲しい!」

「おまえさんはダメ。」

「むぅ!」


仁王にそういわれると頬を膨らませた。

不満ではあるが仕方なく言うことを聞けたのは仁王が飼い主だからだ。


「はいはい、跡部の酒とってきんしゃい。」

「はぁい、」


仁王はこももにワインを取りに行かせるとふと笑う。

それを見た景吾が不思議そうに仁王に尋ねた。


「なんでワインダメなんだよ?」

「ワインだけやのうて酒はダメなん。」

「酒全部か?」

「妊娠しちょるんじゃなか?生理来んらしいしな。」


そう聞くと景吾は目を見開き、ワンテンポ遅れて声を上げた。


「に、妊娠!?まさか仁王のか!?」

「んなわけあるか、」

「じゃあ……まさか真田か!」


景吾が顔色を青ざめさせ、真剣にそう言った。

しかし、仁王はふと笑うだけでなにも言わない。


「さ、真田なのか……?」

「ふっ、本人に聞きんしゃい?」

「聞けるかバカ!」


中学時代の前例(こももと真田は体を重ねている)があるだけあって景吾は急に不安になった。


「妊娠させんなってあれほど言っただろうが!」

「本人が産む気があるならいんじゃなか?」

「チッ、」


仁王は真実かもわからない言葉に真剣になっている景吾を内心楽しんでいた。

そのとき、そう半ば言い合いになってしまった二人を気にしてワインを持ってこももが帰ってきた。


「なに言い合いしてるの?」

「……なんでもねぇ。」

「なら良いけど、ストレスが溜まるとツヤツヤな髪の毛に影響出るよ、景ちゃん?」

「うるせぇ、」


膨れっ面になる景吾にこももは静かにワインを注いだ。


「あ、俺タバコ買いに下まで行く。」

「え?タバコはダメだって!!」

「気にしなさんな、」


仁王はそう言うとマンションの下にある自販機を目指した。

飼い主は犬の忠告は聞かないのだった。


「まったく!タバコは体に悪いから吸っちゃダメって言ったのに。」


こももが“もぉ!”と怒りながら言うと景吾が口を開いた。


「体に悪いって赤ちゃんにか?」

「え?吸う人より周りにいる人の方が害あるって聞いたの。」

「んなこと言ってんじゃねぇよ。腹ん中にいる赤ちゃんに悪いからか?」

「さっきからなに言ってんの?」


景吾はふいっと視線をこももから逸らすとふてぶてしく言った。


「妊娠してんだろ?」

「は?誰が?」

「おまえだよ!ほかに誰がいるんだよ!」

「……妊娠なんかしてないよ?誰に聞いたの?」

「仁王。」


それを聞いてこももの表情は彼を呆れみもの変わり、こう言った。


「騙されたんじゃない?」

「あん?まさか、」


信じようとしない景吾の手を取り、こももは自分のお腹に当てた。


「膨らんでないしょ?」

「まぁ、な。」

「雅治の学生時代の名前覚えてないの?詐欺師って言う。」


景吾は事実を確かめ、すべて仁王に騙されたと気づき、怒り始めた。


「仁王のヤツ!!」

「てか誰の子供だと思ったの?」

「……真田の」

「弦ちゃんの?ありえないって(笑)最近、弦ちゃんとセックスしてないし。」


笑いながらそう言ったこももを見て真剣に景吾は言う。


「じゃあ、他のヤツとしたのか?」

「え?あれからはしてないよ?」

「……あん?」

「景ちゃんが……って、覚えてなくて当たり前だよね(笑)」


景吾は見に覚えがなくて聞き返そうとしたが話を逸らされてしまった。


「てか料理が冷める!雅治め、どこで油売ってんだか。」


ちょっと探してくると言ったこももは部屋を出ていってしまった。


「こももと……いつした?」


景吾は記憶の中を巡るが思い当たらず、やるせない気持ちになる。


「仮にやってたとしてもなんでこももを抱いたんだ?」


疑問は深まるだけだった。

少しするとこももが仁王を連れて帰ってきた。

景吾の言いたいことを察した仁王は景吾の言葉を遮った。


「あ、仁王!てめぇ「俺は妊娠してると断言はしちょらんし。」


そう言われて自分の早とちりだと気づき、顔をほんのり赤く染めた。


「あーやだやだ〜」

「引っかかるようなまどろっこしい言い方しやがって!!」

「俺はよう知らんからあぁ言うたん。勘違いしとったんはおまえじゃろ。」


言い合いをする二人をこももはただ笑ってみていた。

いつもこんな感じで景吾は休暇を日本で過ごすため帰国してきた。

今回も楽しい休暇になるはずだった。

しかし、景吾の中で疑問が大きくなり辛い休暇になることになる。

そもそも、なぜ自分が休暇をわざわざ日本で過ごそうとするのか考えたこともなかった。


「なんじゃ、こんなところで寝よって。」

「俺のためにこんなに料理作ったんだから疲れたんだろ?たく、」


景吾はソファーで横たわるこももに自分が着ていたジャケットを脱いでかけた。

仁王は景吾がこももに対し優しい表情で接するのを見るや口を開く。


「リョウか?」

「あん?」

「目の前にいるんはリョウか?」

「なに言ってやがる。」

「いんや?ただおまえがあまりにも優しい顔するからどうなんかなって、」


そう言った仁王から目をこももに移し、景吾は考えた。

しかし、考えれば考えるほど謎は深まるのだった。





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