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act.139『歩いていけばきっと』
(宍戸視点)


夜中だったけど跡部から連絡が来て、内容を聞いて驚いた。

すぐにリョウを起こし、車に乗せて跡部の家まで来た。


『…眠いよ亮ー』

「寝るなよリョウ!」


時刻はすでに深夜2時。

眠くて当たり前だ。

仕方なくリョウをおぶり、玄関のドアまで行くと跡部自らが扉を開けてくれた。


「オッス!」

「別に来なくてよかったんだぜ?」

「だってよー」

「しかも、リョウまで連れてきたのかよ。ご苦労なことで、」


苦笑しながら跡部はどこか嬉しそうだった。

リョウのためにも快く部屋を一つ貸してくれた。


「両親には言ったのか?」

「あの薬を投与していたことからの説明でよ?かなり怒られたぜ。でも、こももと子供を見てなにも言わなくなったな。」

「あーつまり?」

「相当気に入ったんだろ。気持ち悪いくらい可愛がってたしな。」

「ならよかったじゃんかよ。…ところでこももは?寝たのか?」

「飼い主が心配だとよ。」

「あー…仁王か?」


わからなくもない気がする。

こももに一番手を賭けてたのは仁王だしな。

こももが幸せになれて嬉しい反面、寂しさも感じているだろうし。


「なんにしても跡部。」

「あ?」

「よかったな。」


いつもなら鼻で笑うんだ。

けど、このときばかりは――


「ありがとよ。」


幸せそうに表情を和らげて笑っていた。

一瞬にして、こももに相当惚れてたんだな、と理解した。

愛されてんだな、こもものやつ。


「で?一緒に暮らすのか?」

「父親と母親が離れてるのもよくねぇだろうしな。」

「そっか。」


出してもらったワインを少し口に含んで跡部を見た。

するとなにか考えているようだった。


「どうかしたのか?」

「いや…わからねぇことがあってよ。」

「ん?」

「俺との子供が出来た日、こもものやつ真田ともやったらしいんだよな?」

「は?」

「24時間以内にセックスすると「待て待て待て!なに?真田とこももがやっただぁ?」

「仁王から聞いた。」


跡部からの一言ですべてが繋がった。

デタラメなことを言ったという話を聞いていたからだ。


「仁王の言葉、あんま間に受けないほうがいいぜ?」

「そうなのか?」


跡部はまた考え始めてしまった。

結局、語り明かしてしまったために寝不足となった。


「ママは?」

「ママは用事で出かけた。」

「ずりぃー…あ?どー!!」


俺を見るなり、利一が走ってきた。

俺を三人は“どー”と呼ぶ。

リョウと間違えないためだとか。

なんにしてもおじさんと呼ばれないだけましだ。


『景吾さん、こももはいつ帰ってくるの?』

「さぁ?」

『結婚式いつ?私、ウェディングケーキ作るよ!』

「あー…結婚式か。いつ?予定開けとくわ。」

「いや、まだ…」


跡部は尻すぼみ口調で答えた。

全く、肝心なところで純情ぶってどうすんだよ。


「その内、ということで。とりあえず『お祝いにケーキ焼きたい!』

「それはリョウが食べたいだけだろ?」

『バレちゃった?』


なんにしても、俺ら四人が幸せに満ちた笑顔で集まれるなんて思っても見なかったぜ。


「ただいまー!」

「「ママー!」」

「こもも!」

「(反応早すぎだろ、跡部。)」

「あれ?…リョウちゃんに宍戸くん!」

『こももー!』

「よ、こもも。幸せそうだな?」


犬が歩けば棒に当たるなんてことわざがあんじゃん?

こももは自分みたいって言ってたな。

違うと思うぜ?


犬だって歩いていけば、いいことに巡り会えると思うんだ。

例え、辛くても諦めなければきっと――


「(そう俺に教えてくれた本人が今、その言葉を実感したんじゃねぇの?)」


幸せは訪れるということ。

絶対に忘れるなよ、こもも。





あきゅろす。
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