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act.136『最後の決断』
(こもも視点)


ずっと言えなかった。


「リョウの身代わり、」


妊娠を知ったとき、あなたの子を身ごもりました、なんて言えなくて自分から突き放した。

言ってどうなるというの?

迷惑なだけじゃない。


「リョウ…リョウー!!」


リョウちゃんが去っていったときにあなたの心が憂いに沈むのを見たから、なおさら言えなかった。


「ママーなにみてるの?」

「利琥は見ちゃだめ!」

「…なんで?」

「これはママの大事なものなの。」


時が経ってもあなたの写真を眺めてるときの気持ちは変わらなかった。

そう、例えアルバムが色あせたとしても変わることはないだろう。

あなたへの気持ち、絶えることはない。


“You're my princess forever”


それでもリョウちゃんへの指輪に掘られた文字を思い出せば自分の気持ちを殺すのだった。


“君はいつまでも俺のお姫様”


景ちゃんのあのときの顔を思い出すとなにも言えなくなる。

だから自分に言い聞かせた。

もう彼に用はない、会うことさえない、と。

だから急な再会に動揺しつつも冷たく言い放つ。


「なにか用?」


可愛くない言い方だった。

でも、自分を可愛らしく見せる必要はなかったからそれでよかった。


「子供…特に利琥のこと、話し合わないか?」

「こももはなにも話すことない。利琥を含めた子供たちは今まで通り、こももが育てる。」

「父親にも子供を教育する責務がある。」

「“景ちゃんは必要ない”」

「こもも…!」


そう言ったけど本当は景ちゃんに似た利琥と向き合うのは怖い。

支えがあっても一人で育てていくことは寂しく思ったり、不安に思ったりする。

なによりも――


「こもも!」

「ッ、」


腕を捕まれたことで近くにあなたを感じてしまい、愛しくて――涙を堪えることさえ出来なかった。

その腕に抱きついて泣きじゃくることができるならどんなにいいだろう。


「マ、ママ…だいじょうぶ?愛利、いまハンカチない〜」

「おれだってねぇもん!」


未だに自分を許せない。

正しいことだとしても結局は宍戸くんやリョウちゃん、景ちゃんの歯車を狂わせ、歪ませた。

傷つけ、傷つけさせたりした。


「こもも、」

「…ばないで…もう…呼ばないで…」


でも、なにより自分が狂っていて歪んでいたのかもしれないね。

素直じゃなかったね。


自分がまいたものを刈り取るのが怖くて逃げてた。

幸せの次に訪れるのは不幸だから。

どうせまた失うんだからって思ってた。


「こんな苦しいなら、人間なんてならなければよかったんだ!!犬のままならこんな思いは――っ!」

「…犬なら、些細なことで幸せなんか感じられなかったかもしれねぇだろうが。」


そう言われて呼吸が出来ないくらい苦しくなった。


「誰よりもこももは辛かったよな?」


あなたからのその一言で解放されたみたいに気持ちが楽になった。

そして、今までにないくらい涙が出た。

胸は熱くなるし、目頭は熱くなるし、なにがなにかわからない。

でも、ただわかるのは――


「け…ちゃん…景ちゃんっ!」


何度もあなたの名前を必死に呼んでいたことで殺していた気持ちが溢れかえったこと。


「本当は…本当は好きだった…」

「あぁ、」

「毎日、景ちゃんを思ってた。だけど、また裏切られたら辛いから…忘れようとしたの。」

「それで?」

「そしたら子供が生まれて、利琥を見て…あまりにも似てたからますます辛かった。」

「おまえはバカだな。」

「何度も電話、かけようとした。でも…怖くて出来なかった。」


子供みたいに泣いた。

自分のスカートにシワが付くくらい握りしめていた手に力がさらに加わる。


より近くで聞く声と懐かしい香りと頭を撫でてくれる優しい仕草。


あなたを感じさせるものすべてから自分が幸せになれる要素が溢れていた気がした。





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