act.134『愛したいのに』
(こもも視点)
三人を無事に生み終えてから意識を手放してしまったこももはかなりの間、眠りについていたらしい。
時計の針が進んでいた。
目が覚めるとみんなが顔をのぞき込んでて、おめでとうと口を揃えて言ってくれた。
「こももの赤ちゃんは?」
母親になる覚悟はかなり前からしていたから“自分の赤ちゃん”と認めることを忘れてはなかった。
三人の子供にミルクをあげなければいけないと思い、雅治に尋ねた。
しかし、口を開かなかった。
なにも言わずに赤ん坊を一人抱かせてくれた。
「この子、顔立ちがこももさんに似てるっスね。」
「将来が楽しみです。」
「最後に生まれてきたんはこの女の子やけ。すんなり出たもんで驚いたわ〜。んじゃ、あたしは帰るわ。」
「ありがとう由紀ねぇ。」
由紀ねぇが帰るとすぐに生まれてきた子にミルクをあげた。
「名前は考えたのか?」
「男、男、女だもんね?女の子は愛利がいいな〜」
「なんで愛利?」
「良い名前だって今思いついたから。」
そんな風に会話している間に長女長男共に満腹になり、寝かしつけた。
すでに慣れない赤ちゃんで疲れ始めていたのにまだもう一人世話を必要としていると思うと肩が下がる。
「こもも…次男なんだけどよ?」
自分が母親で彼が自分の赤ちゃんであることは変わりないはず。
でも一瞬、自分の不運に動揺してしまっていた。
「け、ちゃ…ん?」
「…ち、父親の遺伝を受け継ぐのも当たり前だよな!そんな驚くなよこもも。」
愛してる。
でも、まるで景ちゃんがいるみたいに思えて2年半、戸惑い続けていたら――
“ママは利琥のことがキライ”
いつしかそんな風に受けとめた息子が泣いていて、どうしたら愛していることを伝えられるかわからなくて――
「こもも、お母さん失格だよ…」
自分が嫌になっていた。
それでも、大好きだった景ちゃんとの子供、愛するからこそ子供たちを見捨てて現実から逃げるわけにはいかなくて――
「なぜ跡部に言わない。こもも一人で子供たちを育てるのは無理がある。」
「景ちゃんにしたら迷惑でしょ?子供が出来てた、なんてますます。」
「いつか、越えられない壁になりえる。それこそ成長していくにつれて利琥は…」
「弦ちゃん。こももは利琥のことも大好きだよ?」
周りに支えられながら頑張ってみた。
子供たちの成長はかなり早く、利琥は言葉を話し始めた。
三つも口があると大変だけど出来るだけ子供たちの話を聞いてきた。
でもある日、利琥がぽつりと呟いた言葉を聞いて涙が出た。
「パパっていないの?」
子供に父親が要るのはわからなくはないけど絶対に必要?
父親代わりはこんなにいるし、こもももいる。
利一や愛利はなにも言わないけど利琥と同じように思っているかもしれない。
「…景ちゃん…こもも、どうしたらいいのかな…?」
わからなくて…わからないことだらけ。
ふつうの子供より知能が高いうちの子、特に利琥はこももを困らせるようになっていた。
「利琥、危ないでしょ!」
「落ちる前に降りてきんしゃい?」
困らせることでこももの目を引こうとしていること、愛を求めていることだとはよくわかっていた。
愛情にすれ違いの経路が出来ているから、利琥は愛されたいと焦り、こももはママらしくいたいと焦って――
「あんまりママを困らせないで!」
叱りつけたりして利琥を悲しませる結果になる。
反省するけどあとの祭り。
こももと利琥の間に溝が出来て、それが広がっていく。
まるでこももと景ちゃんみたいに。
「(…ホント、最低だなこもも。)」
父親がいない家庭でもたくましく育って欲しいと思い、子供へ溢れんばかりの愛情を向けたいと願いながら出来ない母親。
パパがいないせいで立ちはだかる越えがたい壁に今、まさにぶつかってたの。
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