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act.133『初めまして』
(仁王視点)


生まれてきた子供は酸素を取り入れるべく産声を上げた。

こももが力む度に呼吸が止まるブンと赤也はやっと胸をなで下ろしたのだった。


「(なんか…誰かに似てるよな?)」


内心、みんながそう思っただろう。

こもも、よう頑張った――そう言うのが俺らでいいんかのう?


「こもも、男の子だよ!」

「…ほ、んと…由紀ねぇー?」

「聞いたか真田!男の子、無事に生まれたぜぃ!」

「そ、…そうか。」


遠くにいた真田が生まれてきた子供を一目見ようと近づいてきたとき、こももは再び力み始めた。


「なんスか!?」

「もしかしてまだいんの!?」

「腹がちっとも凹まんしのう。」

「マジで!?」


姉貴は必死に“もう少しだよ”とこももに促した。

頭が見えた、顔が見えた、と言われる度に緊張して胸が破裂しそうになる。

お産に立ち会うんがみんな初めてなため、こももを励ましてやる余裕さえなかった。


「っふ…ぎゃあ…!」


元気のいい産声が上がり、緊張の糸が切れる。

全身筋肉痛になりそうなくらい、体が硬直していた。

力つきたブンはその場に倒れ込んだ。

こももが握っていたブンのその手は真っ赤を通り越して鬱血(うっけつ)していて痛ぇ、と呟いた。


「こら、ブン太くん。頑張ったんはこもものほうなんよ?痛かったんもこもも。」


姉貴がそうブンに言うとヘラッと笑いながらこももにおめでとう、と言っていた。

しかし、こももにしたらまだおめでとうは早い。

赤ん坊をきれいに拭いていた俺と柳生にしてもそうだった。


「この髪の色は…」

「こもものんじゃなかのう。」


小声で柳生と話をしていたときだ。


「うっ…あーーっ!!」


こももがさらに力んだ。

さすがに三回目ともなれば余裕が出てきたのか、赤也が必死にこももを励ましていた。


「三人目は随分すんなり出たもんね。この子は少し小さめやけ、余計かも。」


力尽きたようにこももの手は握っていた赤也の手から滑り落ち、うなだれた。


「男、男、女。三つ子みたい。」

「終わりですか?」

「たぶん。お腹落ち着いたし、」


俺と柳生はバスタオルをまとう三人の子供を並べて絶句していた。

女児は全くのこもも似。

一人目の男児は両親二人の血を受けたらしいが二人目は――


「……な、仁王?」

「なにも言いなさんな。なにも…」

「……」


全くの跡部似だった。

真田は立ち上がると部屋のドアを開けた。


「どこ行くんスか?」

「まさか三つ子だとは誰も思わんかったろう。必要な物を買いに行くのだ。」


買い物へ出かけると言う真田にブンと赤也がついていった。

残された俺と柳生は疲れ果てて眠ったこももを見て言うのだった。


「跡部の子だとは知ってたがここまで似ちょるとは問題ありありやのう。」

「こももさんが辛い思いをするかもしれませんね。」


こればかりはどうしようもない。

跡部似の子供が生まれないとは言い切れないことくらいこももも覚悟してはいただろう。

だが、実際に目の前にするとどうなんじゃろうね?


「上手く愛しやれるんかのう。」


愛していても女児と同じようには愛せないじゃろうな。

なんにしても、ずっと跡部の子だと隠しておけないだろう。

いつかは跡部にバレる気がする。





あきゅろす。
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