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act.132『支えられて生きる』
(こもも視点)


命は大切にしたい。

それが例え――辛い状況に面するかもしれないとしても。

まさか子供が出来てるとは思わなかったから急な知らせに動揺してしまったけどもう平気。


「育てる、」


立派な答えだったと思う。

雅治はこももについててくれると言うし、みんな助けてくれると思うと大して不安に思うことはなかった。


「よう言うた。」

「こもも、一人じゃないもんね?」


明るく笑ったつもりでも心にある感情が表情に出ていたらしく、このときのこももは今にも泣きそうだったみたい。

雅治は心配して抱きしめてくれた。


妊娠を受け入れるのはなにかと大変だった。

“gin-N”の仕事もある。

新商品発売のインタビューはお腹を撮さないようにお願いしたり、雑誌では編集内容を確認させてもらったりした。

CMの撮影では後ろ姿を撮したり、上半身だけ撮したりもした。

すべて雅治が助けてくれた。


「ブンちゃんーあの鍋とってもらえる?」

「お安いご用だぜ。」


月を追うごとに大きくなるお腹に比例して体重が重くなる。

しょっちゅう遊びに来るみんなはなにかと手伝ってくれた。

もしかすると手伝いがてら遊びに来ていたのかもしれない。


「こももさん、いつ生まれるんスか?」

「あと2ヶ月かな?」

「まだ2ヶ月もあるんスか?今でこんだけデカいんなら2ヶ月後はヤバいだろ!」

「何人入ってんだろうな?」

「ちょ、ブンちゃん、やめてよー!」

「こももさん、こももさん、お腹触っていいスか?」

「どうぞー」

「真田さんなんか今からベビー用品そろえてるんスよ〜?」


立海テニス部レギュラーだったみんなはこももと接している時間が多かったせいか、出産を楽しみにしていた。

赤也が言うように予定日はまだ先なのにすでにお腹が張っている。

何人入っているのか、犬であるこももは病院で詳しい検査なんて受けられないから知らないけど…


「こもも、ふつうじゃないんだった…」


ふつうじゃないことが待っているだろうとは思っていた。

病院にかかれないと言うのは不便でもあるが不安が大きい。

雅治の姉、由紀恵(通称、由紀ねぇ)が結婚してしまうまで産婦人科で働いていたのは救いではあった。


「……弦、ちゃ…!」

「こもも?…こもも!どうした!?」

「痛いっ、」

「い…今、仁王を呼ぶ!」


悪阻(つわり)も大して酷くはなかった。

だから余計かもしれないけど陣痛がこれほど痛いと怖くなる。


「こもも!今姉貴くる!」

「柳生、丸井、必要なもの揃えるぞ。」

「は、はい…!」

「何人取り上げるかわかんねぇから用意しようがねぇよ!タオルとか10人分ありゃあ足りる?」

「ありすぎじゃバカ、」


こももの様子を見て慌ただしく回りが動いていた。

みんな出産に立ち会うのは初めてみたいで緊張から落ち着きがなかった。

指示通り、必要な物を揃え終えた頃、由紀ねぇが帰宅した。


「雅治、こももは!?」

「横にならせた。」

「いい、こもも?ここが女の強さを男に見せる時だかんね!」

「…う…ん…」


出産は鼻からスイカが出るくらい痛いと言うけどそれ以上かもしれない。

子宮がギュッと縮み、下っ腹に激痛が走る。

骨盤や脚の付け根や脚の骨が痛むあまり、汗が吹き出た。

それを無言で比呂士くんが拭いてくれていた。

右に赤也、左にはブンちゃんがいて手を握ってくれている。

弦ちゃんは遠くで正座をしていて、この場にいるのが精一杯だ、と体を硬直させながら言っていた。





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