act.131『喜べない妊娠』
(仁王視点)
こももを柳生の家で介護していたときの話じゃ。
「あれだけ冷やすなって言うたじゃろ!なに考えとんのじゃ。」
彼女は忠告を聞かなかったことに対してばつが悪そうにしていた。
まず落ち着くように柳生に促されてしまった。
「仁王くん、なぜ体を冷やしてはいけないか理由を言えばこももさんはその警告により留意するようになるのでは?」
「こももに言えってか。」
「いつかは言わねばならないことなのでは?それなら先延ばしにするのも今言うのも変わりありませんよ。」
こももと二人きりにするため、柳生はそう諭してから部屋を出てくれた。
俺をちらりと見て、すぐにこももは俯いたのだった。
もしかすると今の俺、ものすごく怖い顔をしてるんかもしれんな。
「こもも。」
「うん?」
「これだけは先に言うとく。これからこももが下す決定がどんなものでも、俺はこももの味方じゃけ。」
「うん。」
こももが一瞬、嬉しそうに笑うから言葉を詰まらせてしまった。
きっと、事実を伝えたら――
「こもも、おまえな?……妊娠しとう。」
「え?」
まるで悲嘆という深みへ落ちていく気持ちになるだろう。
わかってたから尚更言えんかった。
「うそ。なんでそう言えるの?」
「…こないだ調べさしてもらったん。柳生んとこの病院行ったじゃろ?妊娠検査薬使うてな。間違いでなければ妊娠3ヶ月てとこじゃ。」
「さ、ん…ヶ月?」
3ヶ月というキーワードを元に自分の記憶を遡(さかのぼ)り、答えに行き着いたのだろう。
微かな声を上げて口を押さえたその手は震え、涙が滴った。
「だから…だからみんな……なんで教えてくれなかったの!?みんな知ってるのになんでこももだけ!!」
「落ちつきんしゃい!」
「放っといて!もう、こももにかまわないで!出てって!!」
ヒステリックに叫ぶこももを見て、こうなるとわかりきっていたのに彼女を救うことが出来なくて悔しかった。
力一杯抱きしめて、気が済むまで泣き叫ばさせてやることしか出来なかった。
少し落ち着いた頃に様子見がてら、ブンが氷嚢(ひょうのう)を持ってきてくれた。
腫れぼったくなってしまった目を冷やすには丁度よかった。
「じゃ、仁王…俺ら帰るから。こもも、お大事にー」
ブンたちには協力を得るため、妊娠の可能性について初めから伝えてあった。
だから柳生の家のリビングでこももの回復を待ってくれていたらしい。
「ブンちゃん、心配してくれてありがとう。」
その時には冷静になっていて、ブンに返事をしていた。
リビングで待っていた三人が帰ると急に家が静まり返った。
そのタイミングでやっとこももとまともに話が出来るようになった。
「…妊娠、なんで…なんだろ…ね?」
「もし、跡部の子なら「笑わせないで。」
こももは目を冷やしながら鼻で笑った。
自身も相手に関して、受け入れなければならない事実だと理解していたのだろう。
「もし、なんてあるわけないじゃない。…そうに決まってる。こもも、景ちゃん以外とセックスしてないし。」
好きな人との子供を身ごもった場合、ふつうは喜ばれたり、喜んだりするのだがこももの場合は違う。
きっと、出産して、生まれてきた子供を見ても素直に喜べないだろう。
いくら自分の好きな人との子供であったとしても。
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