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act.123『拒絶』
(跡部視点)


あれからすぐに仁王から謝罪の電話が来た。


「殴って悪かった。どうかしとったのう、」


それから電話でこももの様子を聞いては気にしていた。

アメリカへ戻り、7ヶ月が経つが久ぶりに息抜きとして帰国しようと考え、なんの連絡もなしに仁王の家を訪れた。

しかし、


「今は会わん方がいい。こももも忙しいんよ。」

「それは俺に会わせたくないんじゃねぇのか?」

「そうは言うとらん。」


仁王は俺と対面させようとしない。

遊園地でのこともあり、会いづらいのはわかるがこももになんの謝罪もしてない。

電話で仁王の後ろから声を聞くことは多かったが、実際にこももと会話はしていない。

しばらく悩んだ末、仁王は家の中へ入り、こももと話をしてきた。

そして、会うことを承諾してくれた。


「あまり連れまわさんでやってくれ。」


仁王の言葉からこももがよほど疲れているとうかがい知った。

こももも支度をするから待ち合わせということで話はついた。

仁王は自分の家からそう遠くないところを待ち合わせ場所として指定し、俺はそこへ先に向かう。


「こもも、こっちがヤバくなったら連絡するきに。」

「ごめんね、雅治。」

「謝りなさんな。こももの世話はずっとしてやるって、あのとき言うたじゃろ?」

「…うん、」

「跡部が待っとうよ。早よう行きんしゃい。」


俺は指定された喫茶店で注文したコーヒーにシュガーもミルクも入れていないというのにひたすらスプーンでかき回していた。

本当にこももが来るか不安で大人しくしていられなかった。

その動作にも飽きて手を止め、ため息を吐いたときに頭を力なくも叩かれた。

次に頭上から声が聞こえた。


「ため息吐くと幸せ逃げちゃうよ?」


電話で聞いた声より鮮明で、より近く聞こえて、俺は無性に嬉しくなった。


「こもも、」

「久しぶり?」

「相変わらず忙しいんだな?」

「ごめんね?由紀ねぇの子供ちゃんの世話とか仕事とかすごく忙しくて。今は雅治に任せてきたから平気。」


元気そうだね?、と言いながら俺の正面に座ると優しく微笑んだ。

最後にこももを見たのは7ヶ月前、それからなにも変わらない仕草や笑顔に懐かさを覚えた。

だが――


「……痩せたか?」


仕事のせいか、少し細くなったような気がしたが俺の問いにこももは首を横に振って答えた。

なにか隠している、そう感じた俺はこももをじっと見た。


「なに?そんなに見ちゃって、」

「いや……」

「久しぶりの日本はどう?」


思い出した。

こももは話題を逸らしたり、話をはぐらかすのがうまい。

話を元に戻そうと試みた。


「…仕事忙しいんだろ?」

「景ちゃんだって忙しいでしょ?あ、向こうでお見合いの話、蹴ったんでしょ?新聞や雑誌でかなり騒がれてたね。」


そして、自分のことは何も言わない。

こももを相手にインサイトは通用しないから厄介だ。


「なんで見合いする必要がある、」

「まぁね、リョウちゃんを今も思ってるならお見合いはいらないよね?」


そう苦笑しながら言ったこももの言葉に俺は立ち上がっていた。

こももにそう言われたのが気に入らなかった。


「どうしたの?」

「……来い!」

「え?や、ちょっと!!」


こももの手を掴み、俺は店を出た。


「なんでリョウなんだ。」

「え?」

「なんでリョウの名前を出すんだ!」

「だって、景ちゃん……」


なにか言いたげなこももに苛つき、俺はまた歩きだした。





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