act.120『間違い』
(こもも視点)
雅治に体を冷やさないように再三言われていたため、スカートてはなく長いジーンズパンツをはいていた。
あれだけ気をつけていたのに川に入ったせいで濡れ、体を冷やす結果になった。
「情けない、」
6月というものの、風に当たれば体が冷えるのは当たり前。
残念ながら濡れたズボンや脚を拭くハンカチなどなかった。
鞄は塀を乗り越える上で邪魔となってしまうからおいてきたのだ。
「……雅治に怒られるな、」
そう呟き、見つけたネックレスを握る手をゆっくり開いた。
それが手中で輝いたのを見て、こももは達成感で満たされた。
すぐにポケットから携帯を取りだし、景ちゃんに報告をすることにした。
「おはよう!」
「あれからちゃんと真田に送ってもらったか?」
「いや、その実は…まだ遊園地にいるんだよね?」
「は!?」
怒りを含んだ声が聞こえ、こももはすぐに言い訳をした。
「景ちゃん、ネックレス落としたって言ってたじゃん?」
「…まさか、」
「探してたの。」
「バカ!んなもんどうでもよかったのに、」
ただ探してあげたいと思ったの。
自分が宍戸くんからもらったネックレスを大切にしているように景ちゃんもリョウちゃんからの指輪を大切にしているだろうし。
「…見つかったよ!」
「……」
「よかったじゃん!見つかってさ?」
「なんで見つけてくんだよ!」
電話越しでも彼がなにか怒っていることはわかった。
きっと辛そうに顔を歪めているだろう。
「なんで……なんでだよ、こもも!」
「なんでって…」
「こももはいつもそうだ!捨てたはずの気持ちを拾っては俺に渡しやがる!“大切でしょ?”っておまえは言う。こももはそんなに俺が信じられねぇのか!!」
景ちゃんの気持ちをこももは考えていなかったのかな?
大切な思い出を捨てる理由はある?
大切な気持ちを捨てる必要はある?
わからないよ景ちゃん。
「ごめ、」
「バカヤロー!」
こんなに怒っているのはこももが悪いんだよね。
そう思ったとき、ふと目の前が真っ白になった。
たぶん、限界に達したんだと思う。
「俺はもうリョウに未練なんかねぇんだよ!!」
彼がなにを言ってるかも理解できないほど、その声は遠くに聞こえた。
携帯を手から滑り落とし、塀を背にしていたこももは芝生の上に倒れた。
その音といくら待っても返事がないことを不審に思ったんだろう。
「……こもも?」
彼が声をかけた。
開園時間を前にこももは自力で遊園地から出られなかった。
「こもも!どうした!?」
景ちゃんはトラウマを取り除けたみたいだけど、こももはできない。
まだ怖い。
人間を100パーセント信じられない。
「(こももは間違ってた?)」
この事件の真相を雅治が知って本気で怒ることになったのもこももが悪いんだよね?
目を覚ますのが怖い――
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