act.119『迷惑かけます』
(こもも視点)
彼が見えなくなるや、弦ちゃんは顔をこちらに向けずに話始めた。
弦ちゃんにはこももの考えがよくわかるみたい。
「なにを企んでいる?」
「……実は、お願いが…」
猛反対する彼にこももは強請るしか出来なかった。
それでもダメだったため、土下座――はしないけど、頭は下げた。
「身体に障(さわ)る。」
その言葉の意味を知らないこももは強行突破に出ることにした。
彼は運よく腕組みをしているし。
「それなら仕方ないね…」
助走をつけ、彼の腕と肩を踏み台にして遊園地の塀に飛びついた。
高い塀も飛躍力のあるこももにしたら踏み台さえあれば無問題。
「こもも!なにをしている!早く降りろ!」
「落とし物を捜さないといけないの。それじゃあねー」
「おいこもも!!」
塀から近くの木に飛び移り、ゆっくりと下りた。
こうしてこももは夜の遊園地への侵入に成功した。
乗り越えた塀を見上げて思うのは弦ちゃんに関して――彼があの後どうしたかはわからない。
ただ、こももが地球上に“名”があって存在する人間ではないこと、また、人気モデルでもあることを考えると大きく問題視するわけにはいかないであろうと推論した。
「この広い遊園地を探すのか…」
一つずつアトラクションを見て回り、日が昇るまで探した。
誰かが拾ったかもしれないと思いながらも、気持ち悪くなって吐いても探し続けた。
「…景ちゃん、」
彼が大切にしてたもので、それに頼っていたことを思い出せばうかうかしていられなかった。
遊園地開園2時間前――現在8時。
「これだけ探してないなんて、」
諦めかけて座り込んだ小さな人工の川の縁には太陽が昇り、日が差した。
そのとき、川の中で異常なまでになにかが光った。
こももはすぐに川の中に靴のまま入った。
光るそれを水の中から引き上げ見れば、捜し求めていた形だった。
「……あった!」
夜、あれだけ探しても見つからなかったのに。
川の中も何度か見ていたけど見つからず、日が昇り、太陽の光によって発見出来た。
それは喜びだった。
「げっ、」
マナーモードにしていた携帯を見れば着信30件、留守電は最大数の10件、メールは21件。
見ればすべて半分は雅治、あとの半分は弦ちゃん、ブンちゃんに赤也たちからだった。
彼らが心配してくれているのはわかるけどその数に笑ってしまった。
「今帰るよ、くらい電話してあげよう。」
心配しているであろう彼らに安否を知らせることにしたけど、雅治相手だと100%説教になるからブンちゃんにかけることにした。
「こもも!無事か?」
「へっちゃらだよー!」
「おまえ心配したんだかんな?真田なんか仁王にがっつり制裁受けてたし、」
「弦ちゃん殴られちゃった?」
「まぁ、な…」
こもものせいで周りに多大なる迷惑をかけたこと、反省した。
でも、まだその迷惑はかけ続けることになる。
塀を上る力はもうないし、園内から出られるようになる開園時間までまだまだ。
膝まで濡れたまま、あと2時間を過ごさなくてはいけなかった。
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