act.116『帰国』
(跡部視点)
「こもも!」
久しぶりに見る彼女の姿。
胸が弾み、俺は知らずと叫んでいた。
それに反応したこももはすぐに俺に駆け寄ってきた。
「景ちゃん!」
「ただいま、」
「お帰りなさい!!」
俺はこももを抱き合しめ、再会を喜んだ。
それを遠目で眺めている仁王を見て不思議に思った。
「なにじっと見てやがる仁王。おかえりのひとこともなしに。」
「ん、あ…おかえりんしゃい、」
求めた言葉が帰ってくると俺は再びこももを抱きしめた。
抱きしめたときの香り、感触、全てが愛おしく感じたからだ。
「跡部、予定は?」
「5日間、暇は暇だが。」
「こもも、明日は仕事なん。明後日なら貸せるぜよ?」
俺はこももといられるならなんだってよかった。
だから彼女に尋ねた。
「こもも、明後日行きたいところあるか?」
「んー…遊園地がいいな?」
「遊園地?この歳でか?」
「いいの!」
子供臭い答えに思わず頬が緩んだ。
仁王がいくつか俺の荷物(土産)を持ってくれると歩き始めた。
「今日はうちに来(こ)ん?食事招待しちゃる。」
「あぁ、サンキュー。」
「こももが作ると思うん、」
「え?こももが作るの?」
「こももの料理なんて久々だな。」
そう言えばこももは頑張って景ちゃんの口に合うよう作ります、と返事した。
俺はおまえの作るものならなんでも食べる、そう言いたかったがいろいろあったために自信が足りなくて言えなかった。
「あ、そういや、ブンと赤也が今日来る言うてたのう…」
「ブンちゃんと赤也の分もご飯いる?」
「アイツらも食べるじゃろう、」
「じゃあ…早めに作り始めなきゃ。」
丸井と切原が来るとなれば、うるさい夜になることは予想がついた。
なぜこんなタイミングでバカ共が仁王の家に来るのか、と二人を恨んだ。
「(あの二人ならはしゃいでくれるじゃろう。うるさいのはちぃとキツいが、)」
しかし、客人が文句を言えたもんじゃねえ。
しかもこももが料理を作ると言うのだから我慢するしかない、と自分をなだめた。
仁王の自宅に着くと家の中にはすでに丸井と切原がいた。
なんでも仁王の母親とすれ違ったそうで鍵を渡されたらしい。
その証拠にリビングのテーブルには一つの鍵があった。
「こももさんが飯作ってくれんの?」
「やりぃ〜!じゃあ、天才的な俺様が手伝ってやるぜぃ?」
「あ、じゃあ俺も手伝うっス!」
台所ではワイワイと楽しそうに笑いながら三人は料理をし始めた。
それを俺はぼーと眺めていた。
正直言うと寂しかった。
ずっと俺のそばにいたこももがほかの男に囲まれているからだ。
自分のもの、なんて思ってはいなかったがそばにいるという約束を今も忘れることはできなかった。
「前に景ちゃん和食が恋しいって言ってたからお魚にしたよ?」
「あ、あぁ。」
「お魚だと弦ちゃんのほうが料理するの上手なんだけどね?」
苦笑しながらできあがったものをテーブルに並べるこもも。
真田。
聞きたくない名前だった。
こももが俺の家を出ていったあの日、真田に抱かれたと仁王から聞いた。
こももの一番近くにいるのはもう、俺じゃないのかもしれない。
そう考えさせられるからだ。
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