act.114『もう平気だよ』
(こもも視点)
景ちゃんが渡米してから3ヶ月が経った後のこと。
こももの顔には涙一つなく、前に比べると変わっていた。
だから雅治に聞いた番号を手にし、彼に電話をした。
「もしもし?景ちゃん?」
「その声は…」
「お久しぶりー!な、こももです!」
「……」
無言でいた彼の言葉を待ったけどなかなか次の言葉が返ってこないから自分から言葉を発した。
「アメリカはどう?慣れた?」
「あ?あ、あぁ…そうだな。元々アメリカにいたから慣れるもくそもねぇけど、」
「仕事も順調?」
「あぁ、おかげさまでな。」
「そうなんだ〜?こももは相変わらず“gin-N”のモデルしてるよ。」
そう言えば“知ってる”とあっさり言われた。
「今、人気急上昇中のモデルなんだろ?」
「各社から出演の依頼があるけどこももは“gin-N”専属モデルだからね。全部お断り。社長(雅治のママ)が毎日イライラしてる。」
「ま、モデルが良いから“gin-N”は儲かってんだろ?だったら他企業がモデルを借り出したいのは言うまでもない。」
「どうも、」
「こっちでも流行ってるぜ?“gin-N”がな?」
「そうだろうね〜!雑誌に化粧品やら載ったから、」
世間話を適当にした。
あのことにこももも彼も一切触れなかった。
「そういやみんな元気か?」
「雅治も赤也もブンちゃんも元気だよ?あ、弦ちゃんもピンピンしてるよ?」
「……そうか、」
どこか寂しそうに返事をした景ちゃんが気になった。
でも、理由なんか聞けないし、聞いたところで大したことじゃないだろう、と決めつけた。
「あ、宍戸くんとリョウちゃんが旅行に行ったんだって?そのお土産もらったよ〜」
「あそこは順調なんだな?」
“あそこは”
こももたちは拗(こじ)れたから、その言葉が単に祝福を意味するとは思えなかった。
彼にそんなつもりはなかったかもしれないけど、こももには皮肉に聞こえた。
「…帰るのも悪くねぇな。」
「え?帰ってくるの?」
「3ヶ月もこっちにいたら和食が恋しくなるんだよ。」
そう言われ、こももは彼が日本を旅立った日にがっくんに言っていた、と宍戸くんから聞いたことを思い出した。
「目の前を飛び跳ねる赤毛が恋しくなったの?」
「まぁ、そんなとこだ。」
返答が面倒くさくなったのか、彼は適当に答えた。
景ちゃんが帰国するとして、こももはそれなりに心の準備をしなくてはいけない。
「仕事があるからな。一週間もこっちを空けられねぇ、」
「そうだよね〜跡部財閥のご子息は大変ね?」
「それは仁王家のご息女も同じだろ?」
「こもも、仁王家の出じゃないけどね?」
笑い合っていると控え室にきた雅治が声をかけてきた。
「こもも、スタジオ行りじゃ。」
化粧やセットを終わらせたこももは空き時間に電話していたのだ。
それと気づいた彼はこう言った。
「忙しいのに電話くれてありがとよ?」
「日にちわかったら教えてね?楽しみにしてる!」
そう言って電話を切った。
そして、自分に言い聞かせるように再度同じ言葉を呟いた。
「楽しみにしてる、」
自分がどれだけ笑えるか、楽しみでもあり不安でもあった。
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