act.113『変わりたい』
(こもも視点)
自分を許すわけにはいかない。
こもものせいで辛くて涙を流した人がいる。
「こもものおかげで自分自身と向き合えたんだぜ?」
宍戸くん、はたしてそれはどうなんだろう?
こももは結局彼を苦しめる結果になった。
だから感謝されても嬉しくない。
雅治が景ちゃんの見送りに出て行ってからわりとすぐ外に出た。
見送るつもりだった。
でも、結局彼に顔を合わせられなかった。
「結局、行ってらっしゃいって言えなかったし…」
情けない声は飛行機の音でかき消されてしまっただろう。
こももは上空を飛行機が通る原っぱにたたずんでいた。
会わせる顔がなかったからだ。
「せめてメールくらい、」
そう思った。
思うことは沢山あったからメールだけなら打てると思ったのに指が動かなかった。
「ごめん、さえ打てないなんて…」
自分の情けなさにうんざりして、辛くて涙が出た。
恐らく景ちゃんはもう飛行機に乗り込んでいる。
時計を見ると離陸するであろう時間。
空を見上げ、飛行機が通るのを待った。
「景ちゃん…また会えるかな?」
自分が変われたらまた会えるかもしれない。
頭上を通った飛行機を見て、そう思った。
「あなたに恋したこももはもうどこにもいません。」
恋愛に没頭した自分を封印した。
いや、景ちゃんが飛び立った飛行機を見て、自分に別れを告げた。
「もう会わないよ。こももはただの犬。」
いつか変われるだろうか?
いや、変われたとしてもそこには跡部景吾が求め、跡部景吾に恋した仁王こももはいない。
さようなら、自分。
これでこももたちの恋愛劇が終わったように思えた。
しかし、彼から逃げたこももには試練が待っていた。
そう、まだ涙は耐えない出来事が。
「…電話?」
携帯が振動し、こももは電話に応じた。
相手は雅治だった。
「景ちゃんのお見送りお疲れさま、雅治?」
「あのなぁ…」
「なに?」
「はは、とか言いつつ、気になって飛行場付近まで来たんじゃろ?」
「!」
どこか嬉しそうに笑う雅治にこももはうるさい、と一言。
それくらいしか反論できなかった。
“一応、大事な友達だから”なんて適当に言ったところで雅治には通用しないから。
「連絡が来たんじゃ。跡部がいなくなって早々じゃけど仕事じゃ。」
「景ちゃんがいなくなったの関係ないじゃん。」
「あ、そう。仕事があった方が余計なこと考えんで良いと思うて、」
「いいよ。スタジオ行く。」
こももが悲劇に気づくのは3ヶ月後、あなたに再開した頃の話。
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