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act.112『たった一言が』
(宍戸視点)


俺がリョウと生活し始めたことで独りになった跡部の様子が気になり、こももに時たま電話で様子をうかがった。


「心配しなくて平気だよ?」


そう言うのが常だったこもも。

その返答が少しずつ変化したのは俺がリョウを引き取ってから1年が経ってからだった。


「合コン?忍足主催のか?」

「そう、人数合わせって気持ちでもいいからって言われてね?そしたら景ちゃんがさー?」


跡部がこももに対しての態度が少しずつ変わりだした。

いや、気持ちだろうか。

話を第三者的に聞いていると跡部がこももを思っているようにも感じた。

でも、こももの側に立って考えれば、身代わりが他の男に絡まれていい気はしない。

そう、こももとリョウを重ねてみているとすれば……


「ところでリョウちゃん元気?」

「おう、最近は料理の勉強してるぜ?」

「お弁当作ってたりする?」

「まぁな、」

「愛妻弁当じゃーん!」

「うっせ!気色悪い笑い方すんな!」


そんな風に考えていたけど、実際は違ったんだな?


「跡部が?」

「うん。こもものために浴衣を選んでくれたの。」

「祭りかなんかに行ったのか?」

「そう、花火見に行ったの。」


花火。

そう聞いて当時は胸が痛んだ。

跡部がこももを気遣う点で余裕が出てきたことは理解した。

その一方でこももの気持ちは変わらないだろう、と不安に思った。

自惚れてたな。


「久しぶり!どうよ、最近。」

「最近〜?そうだな〜…あ!星を見た。」

「星?」

「少し寒かったけどね?景ちゃんが股の間に入れてくれたから平気。」



おまえは俺との思い出を跡部で塗り変えようとしてないか?

俺と過ごした日々を思い出すと辛いから。

たが、こももにとっての初恋がいつまでも続いてるなんて誰が言っただろうか。


「携帯のストラップもらったの。お揃いなんだ。いいしょ?」

「俺に自慢されてもな…悪いけどうらやましく思えないな。」

「羨ましがってたら気持ち悪いよ!」


二人の気持ちは俺の想像を超えていた。

それなのに軽々しく勝手な見解を述べた自分は最低だと今思う。


「未だにリョウの身代わりしてんのか?」


こももが辛い思いをする必要なんかないだろう、そう思って言った。

その一言はこももに打撃を与えた。


跡部はこももを一人の女として見ていて、こももは跡部を支えなくてはいけないという気持ちなく、交わっていた。


「仁王、俺……こももに謝りたいから「そんな必要はない、」

「んでだよ?」

「こもももそんなに弱くはなか。真田が一番こももの面倒見とうし、」

「真田が…?」


謝罪しなくてはいけない、と思ったが仁王に言わせれば逆効果だとか。

信じて良いか?


「恋愛って急ぐもんなん?」

「……いや、」


自分自身、恋を成長させるのに時間が要ったこと。

それはこももも同じだということを信じていいのか?


「車に制限速度、いわば法定速度ってあるじゃろ?」

「あぁ、」

「法定速度以下での走行って警察に捕まるか?」

「…いいや、」

「それと同じじゃよ。ゆっくり恋愛してなにが悪い。」


でもな?

時間は戻せないだろうか、と激しく後悔してんだ。

愛し、見守り続けてくれた女の幸せを願えない男は最低だろ?





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