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act.111『待ち望む姿』
(仁王視点)


先から出かける支度をしていた俺を見ていたくせに立ち上がるや、こももが言う。


「どっか行くの?」


そう聞かれ、ふと先日のことを思い出した。

彼女にそのことをついでに言ってしまおう、というなんとも軽いのりで発言した。


「あれから何回か、跡部から連絡あったんよ。」

「……」

「で、今日は見送りじゃ。」

「…え?」


思ってもなかった言葉に彼女の表情は困惑していた。

誰の?

そんな風に聞かなくてもわかっただろう。

それが跡部の見送りだと。


「一緒に行くか?」

「……気まずい、」

「変なこと気にしてるとまた辛い思いするもんじゃけ。」

「でも……」


躊躇している彼女に俺は跡部のフライトの時間と行き先、出発ロビーを教えて飛行場へ向かった。


空港の駐車場で待ち合わせしていた丸井が俺の姿を見て疑問符を浮かべていた。


「あれ?こももは?」

「来るかねぇ?」

「は?…まさか、見送り来ねぇかもなの?」

「ギリギリまでわからん、」

「うわー。恋愛って食欲までなくすことあるっての本当なの、最近のこもも見てマジだってわかったけど…改めて思った!」

「なにを?」

「恋愛なんか絶対しねぇ!だって、わけわかんねぇし、面倒くせぇし?」

「はは、ブンにわかるわけなかろう。」


丸井と跡部の元へ向かった。

そこには意外なことに宍戸もリョウもいた。


「お、仁王。久しぶり!」

『お元気そうですね?』

「こいつは相変わらずだぜぃ?」

「なんでブンが答えるん。」

「丸井も相変わらずだな?」

「失礼だな宍戸!…お?忍足もいたのか!」

「丸井、それこそ失礼やろう。」


宍戸やリョウは久しぶりに合わす顔に喜んでいた。

その中で跡部は不安げな眼差しを俺に向けた。

それに対し、無言で首を数回横に振ると跡部は目を伏せてしまった。


「なぁ、仁王?」


今のやりとりを見てか、小声で俺に話しかけたのは宍戸だった。


「跡部とこももなんかあった?」

「なんでそう思うん?」

「いや…もしかして、俺のせいかなって。」


宍戸の言い分はこうだ。


「こももが跡部の見送りに来ないわけないし。」

「まぁ、こももの性格を考えるとな?」

「それに跡部のヤツ、急に渡米するって言いやがったし。」


鈍感な宍戸にしたら鋭い答えだと思った。

だからなんじゃい。

こももが宍戸を責めない限り、俺は宍戸を責めたりせん。

というより、端っから宍戸を責めるつもりはない。


「宍戸、」

「ん?」

「すべて、こもも次第のことなん。順調にいっててもいつか今と同じ壁にぶち当たる。それが早まった、それだけじゃ。」

「……こもも来るのか?」

「さぁな。考えが変わったらくるかもしれん。」


そう言った俺は宍戸の表情を見て苦笑した。

やっぱり俺のせいだ、と頬に書いてあったからだ。


「行ってくる、」

「いつ帰ってくんの?」

「さぁな、目の前で飛び跳ねる赤い髪の毛が恋しくなったらか?」

「俺じゃなくて赤い髪の毛が恋しいのかよ!?クソクソ跡部!!」


寂しそうに笑う跡部は立ち上がると鞄を手にした。


「見送りありがとよ、」

「またなー!」

「気をつけろよー?」


跡部はゲートを潜り、その背中は見えなくなった。

その場にいたみんなで顔を見合わせると跡部を見送るために作っていた笑顔は消えた。

そう、こももがその場に来ることはなかった。





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