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act.110『君を哀れむ』
(仁王視点)


それから2日が経った。

跡部から連絡が何度か俺のところにあった。


「こももの携帯に繋がらねぇんだけど、アイツどうしてる?」

「さぁて、真田にでも慰めてもらっとるんじゃなか?あの日、真田と寝てたしな。」


ちょっとからかう気持ちで言ったことを真に受けたらしく、跡部の声からしてかなりショックだったとわかった。

その声の調子が面白いから訂正なんかしてやらんかった。


「……仁王、俺な――」


時間はかかったが、跡部がこももを愛せた、つまり恋愛において復帰できたのはよくわかった。

しかし、こももにしたら―なんで自分なんだろう?―の世界なんだろう。


「それはこももに言うていいん?」

「聞いたとこでこももはなんとも思わねぇだろ、」


跡部の拗ねた声を聞いてから1週間が経ったある日。

俺は一人、出かける支度をしていた。

それを横目で見ていたこももは俺に小さな声で尋ねてきた。


「あのあと?」

「うん。こもも、自分のことなのに覚えてなくてさ。」

「あぁ、真田んこと疑うとるん?」


そう聞いたときのこももの表情を見て笑ってしまった。

わかりやすい顔じゃ。


「なんもなかったと言えば間違いかもしれんけど、こももが思うとるようなことはなかよ?」


跡部と拗(こじ)れた日、こももが酒でベロンベロンに酔ったためにベッドに真田が運んだ。

翌日、自分の姿を見て焦ったらしいが、それには裏の事情があった。

あの後、真田が変な声を上げたから俺らは心配してこぞって見に行った。

そこでは服を脱ぎ捨てているこももと服をはぎ取られている真田がいた。


「なにしとうよ真田、」

「ちち違う!こももが暑いと訴えていきなり脱ぎだしたのだ!」


聞けば、それを見た真田は彼女に服を着るように叱りつけたとか。

酒を飲んだために血行がよくなり、体温が上がったのだろう。

俺なら暑いなら脱いどけ、とでも言うところだが真田が相手となれば話は別。


「叱られて逆ギレしたおまえさんが真田ん服を無理矢理脱がしたんよ?」


一通り話の流れを説明した。

するとどこか安心したような表情のこももがいた。


「脱いで脱がしたあげく、真田にくっついて離れんかったからそのまま寝かせたん。」

「な、んだ…そっか。」

「真田とやったかと思うたん?」

「ちょっとね、」

「真田相手じゃ不満か?」


笑いを堪えながらこももを見やった。

彼女はなにも言わんかったが、表情が物語っていた。


「やっぱり跡部がいいん?」

「…そんなこと言ってないじゃない!」


機嫌を損ねてしまい、こももはプイッとそっぽ向いた。

そして、近くにあったクッションを抱きしめるや顔を埋めた。


「跡部んこと好きなら好きでいいんと違う?」


俺の言葉に彼女が返答することはなかった。

世話の焼ける奴。

そう内心呟いて、なにも言わずにこももの頭を撫でてやった。


「(こもものすべてを手に入れた人は景ちゃんが最後であって欲しい、って少し思っただけだもん。)」


こもも、きっとな?

おまえは自分自身を許せないだけなん。

人を愛する自分を許しちゃいけないなんて誰も言うとらんのに可哀想な奴。





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