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act.109『再び事件』
(こもも視点)


「もー恋愛なんかすっかよー!」

「ちょ、こももさん!」

「落ち着けーい!!」


やけ酒はろくなことがないという。

周りから見ればお酒強い方かもしれないけど自分としては決してお酒に強いわけではないと思ってる。

なのに調子に乗って飲んだのが間違いだった。


「もういい加減にしろ。」

「へーきだって!」


弦ちゃん、こと真田弦一郎に止められるも片手に持つワイングラスにワインを注いだ。

完全に出来上がってるのを見て比呂士くんがグラスを取り上げた。


「こももさん、もうやめた方がいいです。」

「ん〜…」


自分でもなにをしたか覚えてない。

雅治から一連の事件について聞けば、こももに泥酔するまでお酒は飲ませてはいけないとわかったらしい。

キス魔へと変化(へんげ)したというのだ。

恐らく、グラスを取り上げた比呂士くんにもしただろう。


「こももさっ!」

「もう一回〜」

「こももやめろ!」

「やぁ!」


弦ちゃんに引き離されそうになり、こももは彼に一層抱きつくだけだった。

すべての記憶がない。


「はぁ、跡部を受け入れられんかっただけでこんなヒドい様になるようなら考えようじゃな、」

「まったく、仁王。仕付がなっとらん!」

「弦ちゃーん!」

「やめんか!離せ!」


大人しくしていないこももを寝かせるために弦ちゃんがベッドに運んでくれた。

それだけは覚えてる。

でも、それ以外はわからない。



翌朝目覚めて自分がなにも身に纏っていないことに動揺し、困惑した。


「(夜なにがあったの?)」


流れる冷や汗を拭いながら思考を巡らせるけど記憶がないんじゃ仕方がない。

お酒を飲んでいたことは覚えてる。

景ちゃんがこももに言った言葉もその逆も覚えてる。


ただ、なぜ目の前にいる男性も裸だということが理解出来なかった。

どう考えても、彼と――


「……ッ、」


どうすればいいかわからず、涙を流すだけだった。


「た、…すけ…てぇ……」


誰か助けて。

こんなの嫌だ。


「起きたのかこもも。ずいぶん早いな。」

「……」

「いつまでそんな格好でいるつもりだ。服を着ろ、」


身を起こした彼に服を投げられ、こももは黙って服を着た。


「……弦ちゃん、」

「なんだ。」

「なんでもない。」


情けないことに怖くてなにも聞けなかった。

彼はこももが涙を流していることに気づくや、優しく髪を撫で、近くにあったティッシュを手にとって涙を拭ってくれた。


「俺が守る。時がくるまでは。」


彼の言った意味もわからず、こももは彼の目を見た。

そこにはただ“哀”一色に染まった瞳があるだけだった。


「さて、朝飯だ。健康を損なわないためにも朝食は不可欠だ。」

『食べたくない、』

「食べれそうなものだけでいい。食べないよりはましだ。」


そうこももを促す彼について歩いて行った。

よく考えれば、女性にあまり関心がない弦ちゃんに犯されるなんてことあるはずがない。

そんな風にそのときのこももは考えられなかった。





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