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act.108『恋した自分との別れ』
(仁王視点)


俺は真田の家で朝を迎えた。

みんなが集まり、酒を飲んでそのまま雑魚寝していたのだ。


「…通りで重いわけじゃ。」


見れば俺の腹に丸井の足が乗っていた。

それを避けてから身を起こし、窓を開けて外を見、嫌な予感がした。


「こもも…?」


すぐに携帯を開き、電話をかけた。

しかし、繋がらんかった。

それは跡部の携帯にかけても同じだったため、ますます不安に思うた俺は真田の家を飛び出した。


「仁王!朝飯ぐらい食べろ!」

「こももが気になるん。また来るなり。」


真田の家の前に止めていた車に乗り込むと冷えきったエンジンを唸らせて無理矢理発進した。


「こもも…!」


冬というには遅く、春と言うには早い時期の雨はひどく冷たい。

不安は募る。


一方のこももはどこにいたかと言うと跡部邸からそう遠くないところにいた。


「はあはあ、…ッ、」


路地で屈み込み、俯いて一人で泣いていた。

そこへ現れたのは一匹の雌犬。

犬は濡れたこももを気遣うように近づいて来るや、正面に座った。

そして悲しげな声を上げた。


「……心配してくれてるの?」

「くぅーん、」

「ありがとう。でも、こもも……」


頬を伝う涙を慰めるように犬は舐めた。

それを見ていた子犬たちが警戒しながらこももな近づいた。


「おまえはいいね?愛する家族がいて。」

「くぅーん…」

「こももには…」

「わん!」


“元気出して”

そう弱気なこももに渇を入れるかのように吠えた犬をちょうど見た。

俺は携帯電話のGPS機能を用い、こももを見つけ出し、その場に着けた。


「こもも!」

「…ま、…さはる?」

「わんわん!」


びしょ濡れになったこももをすぐに抱きしめた。

すると犬たちは俺たちを黙って見た。


「雅治…こもも、辛いよ。」

「あぁ、」

「こももは二度と恋愛なんかしないって決めたのに…決めたのに!」


震えながら俺の服を握りしめるこももをさすりながら話を聞いた。

すべては俺のせいだと思った。
人を愛することを恐れさせてしまった。


「犬に…犬に戻りたい…!」


人間を恐れるようになったのは俺のせいだ。

人間の良さを忘れさせたのは俺が悪いん。

こももを跡部に任せっきりにしたからじゃな。


「二度と…二度と恋なんかしない!!」


怒鳴ったこももの声に犬たちが驚いて逃げていった。


「せっかく恋したのに、そんな自分に別れを告げる必要はあるん?幸せになれるかはこもも次第じゃろに。」


そう言った俺に涙しながら彼女は言った。

また裏切られるかもしれないと思うと、跡部を真剣には愛せないと。


果たしてそうなのか?


「もう、景ちゃんには前みたいに接しない。」


宍戸の一言が相当利いたらしい。

こももにとって、初恋でもある宍戸の存在は大きい。

だからと言って宍戸を責めることも出来ず…


「体、冷えとうし。帰るぜよ?」

「……うん、」


俺はこももを連れて神奈川へ帰った。

それから数日、あの明るいこももは居なかった。


「もう、こももが好きになった景ちゃんには会わない――」


跡部について促せばこももは口癖のように繰り返して言った。





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