act.107『恋愛恐怖症』
(こもも視点)
好きな人が相手であろうと、無理矢理抱かれるのは気持ちよくないね。
「(なにを思って景ちゃんはこももを抱いてたの?)」
聞きたかった質問は怖くて、心の中で消えていった。
また捨てられることが怖い。
いつかあなたに心から愛せる人が出来てしまうのが怖い。
「悪い。嫌だって言ったのに、」
「…ごめんなさい、」
「?」
一緒に笑って、泣いて、怒った日々は幸せだった――…
「そして…ありがとう。」
「こもも…?」
あなたを信じていたかった。
でも、あなたを苦しめ、リョウちゃんを苦しめ、宍戸くんを苦しめた自分を未だに許せないの。
だから、もうそばにはいられない。
「怖いの―…」
景ちゃん好きになった矢先の声。
“身代わりしてんのか?”
そのトラウマがある限り、自分は幸せになれない。
それに、あなたにはリョウちゃんの姉ではなく、ほかのすてきな人と本当の恋愛をしてほしい。
今からでも遅くはないでしょ?
本当に愛せる人と幸せになって?
なにも、わざわざ姉を恋愛対象にしなくていいの。
「こもも!そばにいてくれるって、約束して今までいてくれたじゃねぇかよ!!」
「ごめん…やっぱり、もう…」
あなたに会えて良かった。
思うのはそれだけ。
「俺、俺はこももが――」
聞きたくない。
その言葉が真実かなんてこももにはわからないから。
「景…ちゃん…景ちゃん…!こもも、怖いの!二度と恋愛なんかしない。二度と好きになってもらわないって思ってた。なのに、」
言いたい言葉はやっぱり言葉にならずに消えていった。
トラウマのせいだとしたら?
取り除ける方法なんてある?
「俺にはこももを好きにならせてくれないのか?宍戸は好きになれたし、好きにさせたくせに…!」
「なんでこももなの?他の人でもいいじゃない!」
「そばにいるのはこももでなきゃダメなんだ!」
「身代わりは……もうしない。」
翌朝、こももは景ちゃんの自宅を出た。
雨が降る中、追いかけてくる彼を気にも留めず。
「こももー!!」
追ってこないで。
こももは二度と“あなた”には会わないと誓ったから。
「こもも!!」
呼ばないで。
あなたはこももの名を口にしてはいけないから。
彼を振り切って電車に乗ろうとした。
ずぶ濡れでも乗せてくれるのか考えながら駅に向かった。
「本当の恋愛ってこんなに苦しいの?」
人生二度目の恋愛に失敗したこももは涙さえ出なかった。
「犬は恋愛なんかしちゃダメなんだね。」
犬(こもも)は子孫を残すために交尾してればいいんだ。
こんな苦しいなら二度と恋愛なんかしない。
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