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act.102『君が笑うなら』
(跡部視点)


適当な時間に俺自身も支度に取りかかったが、さほど時間もかからずに準備は整った。

暇を持て余し、読書に耽(ふけ)っていると部屋の扉が開いた。


「景吾ぼっちゃま、こももお嬢様の身支度が整いました。」

「出来たか、」


立ち上がり、美しくなったであろうこももを見ようと玄関へ向かった。

黒い生地に赤い刺繍が入る上品なカクテルドレスを身にまとい、髪を高いところで結い、毛先は緩くカールがかっていた。


「こもも、」

「………」


不機嫌そうに頬を膨らませ、口を歪ませていた。

首元には不釣り合いなネックレスが光っていた。

使用人らに聞けばどうしてもはずそうとしなかったらしく、仕方なく許したそうだ。


「可愛いじゃねぇの。」

「…可愛いって言葉は子供に言う言葉よ?」


そう皮肉を言う彼女の前で俺は胸に手を当て、一礼していった。


「失礼いたしました。大変お美しい。」

「台詞が臭い、」


どこまでも批判的な彼女に文句を言おうと顔をあげた。

しかし、見れば彼女は頬を赤く染めていたのだ。

照れていただけなんだとわかると自然と口元が緩んだ。


「お姫様、エスコートいたします。」

「…お願いします。」


冗談で差し出した手の上に冗談で乗せたこもも。

お互いを見て笑い、車へ向かった。


車に乗って数分後、ホテルの入り口前に停車した。

彼女をエスコートし、レストランへたどり着くと目の前に広がる夜景に心奪われた。

さらに暖色系の光を放つシャンデリアがムードを高めた。


「景ちゃんお酒飲めるの?」

「法には反してないが?」

「ふーん?」


緊張していることがバレないように赤ワイン越しにこももを見てみた。

すると不適笑う彼女が見えた。


「なにに緊張してるの?」

「ば!別に…!」

「そんなにこもものドレス姿、色気ある?」


悪戯に笑う彼女の瞳の奥はどこか悲しそうだった。

確かにこももの姿にドキドキはしてるが自信持って言えた。


「俺はこももをそんないやらしい目で見てない。」

「………」


意外だったのか、彼女は目を丸めていた。

そして微笑みながら静かに言った。


「ありがとう、」


感謝される筋合いはないのだが彼女が喜んでいるならそれでよかった。





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