act.101『秋―贈り物』
(跡部視点)
少しずつ風の冷たさを実感し始めた頃、こももはマフラーを巻き始めた。
紅葉には似合わない淡いピンクのマフラーでそれを見るのも三年目になった。
聞けば宍戸からもらったマフラーだとか。
「もらったものは大事にしなくちゃ、でしょ?」
本人はそう言うが俺には未練タラタラに思えた。
自分のことを棚にあげて他人をとやかく言う権利もないが、律儀に宍戸から受け取ったネックレスもしている。
「(まだ忘れられないのか?)」
こももの心情は読み取りにくい。
未練があるか否かは別として、俺はこももにものをあげたことがない。
こももの必要は満たしてはいたが自分で選んだ自主的なプレゼントはしたことがない。
たまには悪くないだろう、と思い、俺はこももに理由をつけて出かけた。
いざプレゼントを選ぶとなると難しいものだと気づく。
冬場しか使えないアイテムだというのが難点だが、宍戸がマフラーをチョイスしたのは良い案だと思った。
「(あれならなにかと身につけてられるもんな、)」
しかし、聞けば宍戸はマフラーの色を選んだだけとか。
「にしてもアイツ、なになら喜ぶんだ?」
立ち止まり、こももの常を思い返す。
しかし、参考にすらならない記憶ばかりだった。
なぜなら、彼女はなにをもらっても喜ぶからだ。
「たく、難しいヤツ。」
こももの首には先客(宍戸からのネックレス)がいるし、指輪をあげるという関係でもない。
アクセサリーであげられるものなど限られるため、無難なものにしようかと悩み、挙げ句の果てにさまよっていた。
ふと、気がつけばある店の前に立っていた。
ついでに店内をグルッと窓から見渡した俺はとあるものに目が留まり、店内へと足を進めた。
「なにをお探しですか?」
ショーケース内の商品を見ていたら店員が近づいてきた。
「失礼ですが恋人の方にですか?」
「…いえ、お世話になっている親しい友人に。」
そういえば店員は複雑そうに顔を歪めたがすぐに笑顔を取り戻して言った。
「どんなものをお探しですか?」
目を留めていたものを見ていると店員は気を利かせてその品を取り出してくれた。
その店に入って約1時間後、俺は品を受け取り、外に出た。
手元にある紙袋を見て笑みを浮かべる俺を通りすがる人間が怪しい目で見るがそんなことはどうでもいい。
ただ、彼女さえ喜んでくれるなら――
「おかえりー!ずいぶん遅かったじゃん。なにしてたの?」
帰宅するとまるで新妻のように出迎えるこももをまず抱き締めた。
「今日、夜空いてるか?」
「うん?」
「付き合ってくれないか?」
「いいよ?」
彼女から了解を得、自分の家の経営するホテルの最上階にあるレストランに連絡を入れるように使用人に伝えた。
こももにおしゃれをさせようと考え、再び使用人に声をかけた。
「ちょ!なにするつもり!?」
「可愛くしてもらえ、」
悲鳴を発しながらこももは姿を消した。
恥ずかしさゆえか、常に悲鳴が聞こえて笑えた。
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