act.99『夏―スイカ割り』
(跡部視点)
去年の夏は花火を見に行った。
浴衣を着たこももが色っぽくて周りの目も気になっていた。
それに加え、色々自制するのに苦労したのを覚えてる。
今年は海に行かないかと誘ってみた。
浴衣より危ない気がするが。
「悪くはねーだろ?」
「景ちゃんがいいならいいけど…」
誘ったときの彼女の反応からするとこももはみんなでプライベートビーチに行ったときのことを思い出しただろう。
しかし、俺としてはなにも問題はない。
それらは過去の思い出に変わっていたからだ。
「暑い中、クーラーの中ばっかじゃ体調崩しかねないしな。」
「うん。なら支度してくる!…ところで二人で行くの?」
「急な話だからみんなが都合つくかどうかが微妙だろ。」
「聞くだけ聞いてみればどう?」
みんなに連絡するように言われ、俺はとりあえずみんなに伝えた。
都合がついたのは忍足と鳳と岳人だけだったがすぐに三人は応じた。
「侑士、ナンパに行ったきり帰ってこないね?」
「忍足さんですから、」
「軟派男、」
海に到着して早々、姿を消した忍足はほっておくとし、四人で支度をした。
「海と言えば、スイカ割りだろ!」
気合いを入れて棒を振っていた岳人はこももに棒を持たせ、目隠しをさせた。
「レディーファーストですね?」
「一応な、」
「ちょっと景ちゃん、一応とか失礼じゃない?」
岳人にグルグルと回され、よろけるこもも。
おぼつかない足取りで向かうのはスイカではなく…
「てやぁ!」
「こもも待てー!!」
「!?」
「ひゃあっ!!」
「「!」」
鳳に向かっていった。
もちろん鳳は寸前で転けかけたこももを受け止めた。
その後の様子に目が点になった。
「すすす、すいません!」
「別に良いよ。減るもんでもないし。」
慌てて手を離した鳳と全く気にしないこもも。
ハプニングだとは承知だが、異常なまでに気にしていたのは俺くらいかもしれない。
「そうだってー。鳳だってわざとじゃねんだし?」
「それに男は女の胸を触ってなんぼでしょ?」
「ちったぁ気にしやがれバカ!」
ケラケラ笑うこももを羽交い締めにして俺は説教していた。
鳳だけが気まずそうにしていた。
「そーれーよーりー!俺スイカ食いてえんだけど!」
空気を一変させた岳人の言葉に振り返り見れば俺の隣でジャンプしてる。
ギョッとした。
「「まさか、」」
「なに、まさかって?」
「ちょ!向日さん!やめた方がいいっス!」
「やめた方が、じゃなくてやめさせろ!!」
あたふたしてる鳳に止めるように言ったが遅すぎた。
「どらぁ!!」
「それ宍戸さんの台詞です!!」
「んなことに突っ込んでる場合じゃねぇだろ!早くスイカを退け――」
スイカに手を伸ばした時にはすでに遅くて、岳人はスイカに飛び乗った。
しかし、それでも割れないスイカに笑えた。
「がっくん軽いんじゃない?」
「クソクソスイカ!」
ただ砂の中に埋まっただけだった。
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