act.91『デート』
(跡部視点)
「いきなりどうしたの?」
「気持ち悪いだろうが。気を許してない相手に触られるのは、」
「…ま、ね?」
「それに魂胆丸見えなんだよ。こももを落とそうなんて無理な話だ。」
文句を言っていると隣で笑う声が聞こえた。
「よくご存じで、」
力なく笑う彼女を見て胸が弾んだのは気のせいだろう。
でも、こももがほかの男といるのを見ていい気はしなかった。
「景ちゃん、」
「あん?」
「折角抜け出してきたんだから、デートしよ?」
手を差し出してきたこももの手を俺は自然と握り、指を絡めた。
「どこに行く?」
「とりあえず、ビリヤード希望!」
「ビリヤード?」
そのときは気づかなかった。
なぜ、こももがビリヤード場に行きたいと言ったのか。
「こもも、自慢じゃないけどうまいよ?」
「俺だって、宍戸ほどじゃなくても…」
言いかけて気づいた。
ビリヤードは宍戸が得意とする遊びであることを。
こももを見れば苦笑していた。
「こもも、おまえ…」
そうだよな。
そう簡単に忘れられるわけないよな。
「こもも、宍戸くんと遊ぶとき、絶対ビリヤードしてたの。」
「………」
「だから、さ?すごい上手になったの!いくら景ちゃん相手でも負けないんだから!」
笑いながら俺の腕を引っ張り、早く、と急かすこもも。
俺は不安になった。
ビリヤード場なんかに行ったら、宍戸との思い出がごった返すんじゃないかと。
「……こもも、なにもわざわざビリヤードじゃなくても。」
「やりたいの!ただ…それだけ、」
そう言って説得するこももに渋々ついていくことにした。
意気揚々と少し古い建物に入っていくこもも。
俺は周りを見渡しながら後について歩いた。
中に入ると薄暗く、少し煙たかった。
こももはここによく来ていたらしく、臆することなくビリヤード場のカウンターに身を乗り出して叫んだ。
「おじさーん!」
それに驚いていると奥から人が出てきた。
「お、こももちゃん!最近来てくれねぇから寂しかったんだぜ〜?」
「すいませ〜ん。」
「亮のヤツがいなくなったからどうしてるかと思ったけど、もう心配いらねぇな!」
笑い飛ばす中年のおやじは俺を見て言った。
「こももちゃんの彼氏だろ?」
「あ、いや…」
「まだそこまでいってないのか?あはは!」
笑うようなことではないのになんて楽しそうに笑う人なんだろう、と思った。
すぐにおやじはボールを乗せたトレイとキューをカウンターに置いた。
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