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act.98『春―暖かい気持ち』
(跡部視点)


リョウが俺の元を去ってからの一年はこももと過ごした。

楽しかった。

こももといる時間が多かった分、俺がリョウを忘れるのは簡単だった。

そばにこももがいることによって感じることや生じたことが俺を変えた。

ずっと変わらずに生きていくと思ってた。

その年も――


「景ちゃん!景ちゃん!」

「るせーな、寝かせろ。」

「んもー!庭の桜が満開なのにぃ…」


親の仕事を手伝いながら大学に通う俺にすればスケジュールがびっちりだった。

疲れているせいもあり、朝はゆっくり寝かせてほしいと思う今日この頃。


「いいよ!一人で団子食べるもん!」


ふてくされて出ていったであろうこもも。

俺は一人、花より団子かよ、と心中で突っ込みを入れた。


「僕らはー言えるーだろうかー?偽りーのーないー言葉ー」


庭で歌うこももの声が遠くで聞こえた。

澄んだ声、透き通るような、胸にしみるような、優しい歌声に涙がこぼれた。


「あんのバカ。選曲はしっかりやれってんだ。」


いきなり歌いだしたフレーズに心打たれた。

“偽りなんかない真実の言葉”

胸を張って言えるまで、もう少し時間をくれ。

俺は確実にこももに惹かれていると最近ひしひしと感じているから。


「団子は食ったのか?」


それから結局、彼女が気になって俺は寝ることはできず、着替えて支度をして外に出た。

空高くで鳴いてる雲雀の声と暖かな日差しが春を物語っていた。


「こもも、……って、マジで団子食ってんのかよ!?」

「だってー」

「朝飯は?」

「まだ〜」

「朝飯より団子か!」


みたらし団子を頬張るこももの頬にはタレが付着していた。


「タレ、ついてる。」

「ん?どこ?」


短い舌が口の周りをチロチロと舐めている。


「とれた?」

「いや?」

「んー…」


鏡がほしいと言ったこももに俺はタレのついてる部分を舐めて言った。


「鏡なんざ必要ねぇよ、」


そうすれば少し頬を赤く染めて怒られた。


「犬みたいなことしないの!」

「それは“犬”の仕事だもん!…だろ?」

「そうそう、それはこももの――って、なんでやねん!」


関西風にノリ突っ込みをしたこももを見てて笑ってしまった。

表情がころころと変わるから、見ていて飽きない。


「最近、忍足に似てきたな?」

「…やっぱり?」


大学についてくるこももは忍足との接触が前より増えた。

そのせいか、こもものノリが関西系になってきた気がする。


「あー!団子に桜の花びらくっついたー!!」

「あん?そんなもん取ればいいだろ?」

「手が汚れるもん。」

「舐めてやるぜ?」

「軽く拒否させていただきます、」

「拒否って言葉使う時点で軽くないと思うぜ?」

「こももの団子がぁー」

「て、聞いてたのかよ!?」

「聞いてたけど聞いてない。」

「どっちだよ、」


どちらからでもなく、顔を見合わせるとお互いに笑いだした。


「景ちゃん、ずっと笑っていたいね?」

「そうだな、」


俺たちは今年の春、そんな暖かい日を過ごした。





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