act.94『乱れた気持ち』
(跡部視点)
「あれ、リョウちゃん!?」
ある日の夕方、リョウが俺の家を去ってから一年が経った、その日。
一年ぶりにリョウは姿を現した。
正直、動揺していた。
「やだぁ!久しぶり!どうした…の?」
なにも知らなかった俺は庭にいたこももに用事があって彼女のところに来た。
そして、そこにいるはずがない人の姿を見て胸が痛んだ。
「……リョウ、」
「あ、景ちゃん。」
「どうしたんだよ?ついに宍戸が見つかったか?」
平静を装い、軽々しく言ったのが間違いだった。
拍車をかけてしまったらしく、リョウはその場に泣き崩れてしまった。
それを見たこももがもぉ!と呆れて言う。
俺の感情だってくみ取りやがれこもものバカヤロー。
『…追い払われ、ちゃった…の、』
途切れ途切れに言うリョウの言葉を聞いた俺はすぐにこもものズボンのポケットにある携帯を引っこ抜いた。
こももなら確実に宍戸の連絡先を知っていると思ったからだ。
「ちょ!景ちゃん!!」
奪い返そうとするこももを片手で押さえ込み、アドレス帳から宍戸の名を探して電話をかけた。
「宍戸、テメェなにリョウを泣かしてやがんだ?」
「なんの話?」
「リョウのヤツ、泣いて帰ってきやがったんだぜ?」
必死に訴える俺とは違い、宍戸は冷静に言う。
「……もう俺には関係ない。」
俺は宍戸の一言で救われるはずだった。
しかし、期待していた言葉とは全く逆のもので愕然とした。
宍戸がリョウを受け入れることで俺は完全に吹っ切れるはずだったからだ。
隣でこももが落ち着いて!となだめている声なんか耳に入らなかった。
「リョウがどんな思いでこの一年、おまえを探したと思ってんだ!その姿を見て俺やこももがどれだけ辛い思いをしたかおまえはわかってんのか!」
伝わったかわからない結果に不満足だった。
気持ちの整理中に書類を宍戸にぶちまかれ、困惑している状態だった。
「景ちゃん…」
「……悪い、つい。」
「宍戸くんはガツンと言わないとわからない人だから良いんじゃない?」
俺を励ましてくれたこももに携帯を返した後の腕は力なく垂れ下がっていた。
しかし、リョウは俺の訴えや気持ちを理解してくれて喜んでいた。
嬉しかった!、と言うリョウの顔は涙でぐちゃぐちゃだったが、その笑顔は最高に綺麗だと思った。
俺は一瞬で自分の気持ちがわからなくなってしまった。
「(景ちゃん、)」
切なげな顔をしているであろう俺を気遣い、こももはさりげなく手を握ってくれた。
それだけで少し安心出来、平安だった。
『私、幸せだよ!こんな良い人たちに囲まれてて。やることはやった。だから良いの、』
リョウは満足したような様子だったが俺は宍戸の答えに納得できずにいた。
それによって自分の気持ちが左右されたからだ。
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