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act.93『支えられつつ支えて』
(跡部視点)


「ごめん、みっともないところ見せちゃった。」


未だ腫れぼったい目でいるこもも。

俺はなにも気にしちゃいないのに謝られるとその場に居合わせたことが悪いことのように思えた。


「こもも、おまえは無理しすぎだ。いや、無理させちまったのかもな?」

「そ、そんなことないよ!」

「こもも。ため込むな。」

「………ため込んでないよ?」

「俺はもう大丈夫だ。だから…少しは俺を頼れよ?」


女にいつまでも支えられてるようじゃ男が廃(すた)る。

そう言えばこももは笑っていた。


「ありがとう、」


こももの涙はあまり見たことがない。

だから胸が痛んだ。


「じゃあ…夏、ね?」

「あ?」

「一緒に花火見てくれる?」

「もちろんだ、」

「海につれていってくれる?」

「あぁ、」

「秋は夜中に起きて星を見て、冬は雪だるま作ってくれる?」

「約束する、」


そう言えば、こももは嬉しそうに笑いながら涙を流した。

すべての記憶を“懐かしい思い出”に変えるべく、こももはそう言ったのだろう。


「景ちゃん?」

「あ?」

「ずっと友達でいてね?」


そう言われ、なんとなくシックリこなかったが俺はこももと約束をした。


「それはこももが死ぬまで有効?」

「死ぬなんて言うな、」

「だって、いつ死ぬかなんてわからないもん?」

「……死ぬまで、友達か……」

「?」


その言葉から寂しさを感じた理由はわからないまま、俺は時を過ごすことになる。



夏には約束した花火を見に行った。


「どうしたの?顔赤いよ?」


浴衣を着たこももが色っぽく見えて、色々自制するのに苦労した。


「たく、危なっかしいヤツ。」


人混みの中、迷子になりかけたこももを叱りつけて手を繋いだ。


「景ちゃん、これ持ってて?食べたらダメだからね!」


そして、片手に綿飴を持ち、俺にリンゴ飴を持たせてこももが歩きながら満足そうに食べていた。



秋には約束通り夜中に起きて星を見てやった。


「すごく綺麗…」


静かな夜、星の下で変なムードに流されてキスをした。


「悪い、」

「ううん?」


星の優しい光に反射したこももの涙を見て俺も泣きそうになった。



冬になり、雪が降ると庭に出てはしゃぎ回るこももを見て、そんな歌があったな、と呟きながら小さな雪だるまを作ってやった。


「この雪だるま可愛い!」


玄関に置いていたが翌朝、暖かな日差しのせいで溶けてしまっていたのを見て泣きそうになってたな。


「冷凍庫に入れておけばよかった、」


そう呟いたこももが子供のように見えた。

次にはもっと大きな雪だるまを作る、と言うこももを愛しいとさえ感じていた。



支えられつつ、支えてきた。

こももといる時間が多かった分、リョウを忘れるのはあまり問題とならなかった。


「こもも?」

「なに?」

「なんでもねー」

「呼んでおいてなによー?」


隣にこももがいることに対し、俺は幸せを感じ、純粋な愛を抱き始めていただろう。





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