act.85『心配』
(仁王視点)
目の下にクマを作っていた跡部は自分の身も顧(かえり)みず、こももが目を覚ますのを寝ずに待っていた。
「しかし、2週間半も。よく体保ったなぁ?」
「ふん、俺様はそんな柔じゃねぇよ。」
高笑いをする跡部を見てこももと顔を見合い、笑ってしまった。
「のう、忍足さん。こももんことなんじゃけど、」
「あぁ、平気やで?侑士から話は聞いてるさかい。」
「(なにが平気なんじゃろう?)」
こももを見てくれると言ったのは忍足の父親で、医療費の事はうまく誤魔化してくれると言う。
歴史上、こももは日本に存在しない人物だから保険に入れなければ、その証もない。
当たり前だが。
「医療費は俺が払う、」
「は?俺ん犬なんじゃから俺が払うんが筋が通っとうよ。」
「いや、俺が払う。」
俺は渋々、一度言い出したら聞かないタイプであろう跡部にゆだねることにした。
「しかし、こももはよう食べるな?食べ過ぎちゃう?」
「だってお腹空いてるもん!」
忍足に返答し、こももは食事を再開すると隣に座る跡部の口にも食べ物を運び始めた。
まるで母鳥と巣立ち前の雛状態。
「まぁまぁ、仲がよろしいこと。ほんなら俺はこれで。何かあったらいつでも声かけてなぁ?」
「ありがとうございました。」
親代わりである俺が忍足の親父さんに頭を下げた。
全く世話が焼ける。
「ところでこももの肩はいつ抜糸すればいいの?」
「オトンの話では1ヶ月後に抜糸やて。」
こももが割れた花瓶の破片で切ったのは肩だった。
女の子が体を縫うなんて傷が残る、なんて親臭いことを考えていたのは内緒じゃ。
「なぁ、仁王。跡部、もうこももに乗り換えたんやろうか?」
「さぁな?」
「切り替え早いな〜」
忍足にそんなことを言われているとも知らず、跡部とこももはお互いに笑いあっていた。
跡部も精神的に少し立ち直り、こももも元気になり(元から元気じゃけど)、俺たちは安心していた。
しかし、ふと思ったのはリョウは宍戸についていってしまったため、こももがうち(仁王家)に帰れば跡部は独りになるんじゃないか?
今の跡部を独りにして大丈夫だろうか?
「こもも、俺は帰るけど…おまえさんはどうするん?」
一番良いのはこももに決めさせることだと思った。
「こもも?こももはー…」
答えるのに躊躇しているようだがどうやら答えは決まっているらしい。
「わかった。なら俺は先に帰るぜよ。」
「残るなんて一言も言ってない!」
言い終わるか、否か。
こももの腕をとっさに跡部が掴んだ。
こももは視線を自分の腕から俺に移したがどこか気まずそうに俺を見ていた。
「跡部がこももの復帰祝いになんか食べさせてくれるらしいねん。せやんな、跡部?」
忍足が焦ってフォローした。
しかし、跡部は一向になにも言わない。
俺にはこももがリョウの代わりになってしまうことなど目に見えていた。
こももがこれ以上辛い思いをするなら連れて帰りたいところだったが仕方ない。
俺は様子を見るとしよう、と自分に言い聞かせた。
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